・・・河馬と言うものの特徴を見せるために、その前後並びに側面から見た形、眼、耳、鼻、口、尻尾、脚等の形態、水中にもぐって鼻づらだけ出した様子、鼻息で水を吹きとばす有様、水中で動くときに起る水の渦動、こういったようなものを十分に詳しく見せようと思っ・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・これがみな複雑な渦動の団塊であって、六かしい運動を続けながら、だんだんに拡散して行くのである。昨年九月一日被服廠跡で起った火焔の渦巻を支配したと同じ方則がここにも支配しているのだろうと思って、一生懸命に眺めていたが、この模糊とした煙の中から・・・ 寺田寅彦 「雑記(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・ 煙の柱の外側の膚はコーリフラワー形に細かい凹凸を刻まれていて内部の擾乱渦動の劇烈なことを示している。そうして、従来見た火山の噴煙と比べて著しい特徴と思われたのは噴煙の色がただの黒灰色でなくて、その上にかなり顕著なたとえば煉瓦の色のよう・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・例えば塵埃に光波が当った時に、光電効果のような作用電子が放散され、それが高層空気の電離を起す事、それが無線電信の伝播に重大な関係を持ち得る事、あるいは塵が空中の渦動によって運搬されるメカニズムやその他色々の問題が残っている。限られた紙数では・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
・・・これには対流による渦動の問題がある。また半ば満たした金だらいの中央にコップの水を注入する時に水面に菊花状の隆起を生じる事がある。これもまた渦動の一問題であるらしい。また半球形の湯飲み茶わんに突然水を放射すると水は器壁に沿うて走り上り、縁から・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・西川一草亭の花道に関する講話の中に、投げ入れの生花がやはり元禄に始まったという事を発見しておもしろいと思った。生花はもちろん茶道、造園、能楽、画道、書道等に関する雑書も俳諧の研究には必要であると思う。たとえば世阿弥の「花伝書」や「申楽談義」・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・精しく云えばこの中には身辺にある可動性の器物や人間や一切のものの引力も加わっていてこれらが動けばそれだけの影響はあるはずである。ただこれらの影響は地球全体に比べて小さい事も確実である。次には雰囲気の引力から起るものであるが、これは地面にある・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・その中に雷雨の生因と、雲および風の渦動との関係が予想されているのがおもしろい。また雷鳴の音響の生因について種々の考えがあげてあるが、この問題については現在でもまだ種々の異説があるくらいである。この方面の研究に没頭せる気象学者にとっては、この・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・芝居は相当よく分り、花道の効果、または能の表徴的な美も理解しているらしいが、日本語がちっとも読めず、読まねばならぬとも感じていないらしい。それで日本の文学は云々出来ず。 T・O夫人、山梔のボタン・フラワ。白駝鳥の飾羽毛つきの帽。飽くまで・・・ 宮本百合子 「狐の姐さん」
・・・同時に、左右の花道から、鼓、太鼓、笛、鉦にのって一隊ずつの踊り子が振袖をひるがえして繰り出して来た。彼方の花道を見ようとすると、もう此方から来ている。華やかな桃色が走馬燈のように視覚にちらつき、いかにも女性的な興奮とノンセンスな賑わいが場内・・・ 宮本百合子 「高台寺」
出典:青空文庫