・・・家庭の純潔が言われても、社会がこれらの家庭の純潔を全うさせるだけの条件を一つも備えていなかったことはオルゼシュコの「寡婦マルタ」の哀れな生涯がまざまざとしめしている。それどころか近代文学の殆んど総てはこの近代の神聖な結婚と純潔な家庭生活等を・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・電気工の助手として働いている中に一九一七年に逢い、一九二七年、二十三歳で健康を失い四肢の自由を失うまでオストロフスキーは発電所の火夫から鉄道建設の突撃隊、軍事委員、同盟の指導等精力を尽して、組織が彼を派遣した部署に於て活動した。四肢の自由を・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・ 戦時中婦人を駆りたてて戦力の一部としたすべての婦人団体は、最もその責任を明らかにしなければならない今、尨大な数に達する婦人の離職者、寡婦、戦災孤児などの不幸な生存の危機を救う、どんな誠意も実力も喪っております。新聞は、大都市における婦・・・ 宮本百合子 「婦人民主クラブ趣意書」
・・・ヤコヴという胸幅の広い角張った火夫であった。カルタが巧くて、大食で、この男がへこたれたり、考え込んだりしたのを見たことがない。毛むくじゃらの口からは常に言葉が流れ出している。それでいて、彼の中には何となく人と違ったところがあった。それは昔の・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・スムールイは、一度ならずその嘘のような腕力をふるって水夫や火夫の破廉恥で卑劣ないたずらから少年ペシコフをまもったのであった。 十歳の時、ゴーリキイは詩のようなものをつくり、手帖に日記を書きはじめた。日々の出来事と本から受ける灼きつくよう・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・子もちの寡婦の苦しい生活と、労働条件のわるさ、停年制などは、組合が、互に扶け合う力で改善してゆかなければ、個人で変えようありません。 きょうのメーデーに、地球をまるい輪にかこんで行進している世界数億の働く男女がスローガンとしてかかげ・・・ 宮本百合子 「メーデーと婦人の生活」
・・・オルゼシュコというポーランドの婦人作家の書いた「寡婦マルタ」をよめば、良人に全生活を庇護されてゆくように、その幸福を飾る花であることを目的としたまとまりないいわゆる淑女の教養きり身につけていない善良で気品ある女が、いったん逆境に陥って燃える・・・ 宮本百合子 「ものわかりよさ」
・・・ 荷風は、ロマンティックな蕩児として大学を追われ、アメリカに行き、フランスに着し、帰朝後は実業家にしようとする家父との意見対立で、俗的には世をすね、文学に生涯を没頭している。 日露戦争前後の日本の社会、文化の水準とヨーロッパのそれと・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
・・・「従妹ベット」「ウウジニイ・グランデ」、モウパッサンの「女の一生」などは法律の上にも経済の上にも受け身な女の一生の真情の悲劇を心を貫く如く描いている。「寡婦マルタ」はポーランドの婦人作家オルゼシュコによって書かれているが、この作品は従来の女・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・主人は四十を越した寡婦で、狆を可哀がっている。怜悧で、何の話でも好くわかる。私はF君をこの女の手に托したのである。 ―――――――――――― 私がF君に多少の心当があると云ったのは、丁度その頃小倉に青年の団体があって・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫