・・・ また壁と壁の支えあげている天井との間のわずかの隙間からは、夜になると星も見えたし、桜の花片だって散り込んで来ないことはなかったし、ときには懸巣の美しい色の羽毛がそこから散り込んで来ることさえあった。・・・ 梶井基次郎 「温泉」
・・・その麗かな臘月の午前へ。 堯の虻は見つけた。山茶花を。その花片のこぼれるあたりに遊んでいる童子たちを。――それはたとえば彼が半紙などを忘れて学校へ行ったとき、先生に断わりを言って急いで自家へ取りに帰って来る、学校は授業中の、なにか珍しい・・・ 梶井基次郎 「冬の日」
・・・そして花片の散り落ちるように、また漏刻の時を刻むように羯鼓の音が点々を打って行くのである。 ここが聞きどころつかまえどころと思われるような曲折は素人の私には分らない。しかしそこには確かに楽の中から流れ出て地と空と人の胸とに滲透するある雰・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・は河または河辺の野であり、アイヌやサモア、マオリ語でも「アナ」は穴でもある。戸波 「ペッパロ」は川口。またモン語で「ウェア」は平原。大西 「オニウシ」大きな森。奈路 この地名は土佐各所の山中にある。アイヌで「ノル」は熊の足跡であ・・・ 寺田寅彦 「土佐の地名」
・・・それは、昔の封建的で個人主義的農民気質と生活の型が、あらゆる農村生活の特殊性等が社会主義建設の現実にあっては、より高い階級的自発性への可変的要素であることを、複雑な新しいものと古いものの錯綜のうちに芸術化するという課題である。 ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫