・・・ 間瀬久太夫が、誰に云うともなくこう云うと、原惣右衛門や小野寺十内も、やはり口を斉しくして、背盟の徒を罵りはじめた。寡黙な間喜兵衛でさえ、口こそきかないが、白髪頭をうなずかせて、一同の意見に賛同の意を表した事は、度々ある。「何に致せ・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・これがなければ学校へ通われぬと言うのではない。科目は教師が黒板に書いて教授するのを、筆記帳へ書取って、事は足りたのであるが、皆が持ってるから欲しくてならぬ。定価がその時金八十銭と、覚えている。 七 親父はその晩、・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・やがて忘れてな、八時、九時、十時と何事もなく課業を済まして、この十一時が読本の課目なんだ。 な、源助。 授業に掛って、読出した処が、怪訝い。消火器の説明がしてある、火事に対する種々の設備のな。しかしもうそれさえ気にならずに業をはじめ・・・ 泉鏡花 「朱日記」
・・・この方針から在来の女大学的主義を排して高等学術を授け、外国語を重要課目として旁ら洋楽及び舞踏を教え、直轄女学校の学生には洋装せしめ、高等女学校には欧風寄宿舎を設け、英国婦人の監督の下に欧風生活を実習させて、日本の女をして一足飛びに西洋の女た・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・も、そのニッポンの大サンショウウオの骨格が、欧羅巴で発見せられた化石とそっくりだという事が明白になってまいりましたので、知らぬ振りをしているわけにもゆかず、ここに日本の山椒魚が世界中の学者の重要な研究課目と相なりまして、いやしくも古代の動物・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・「時間を減らして、その代りあまり必須でない科目を削るがいい。『世界歴史』と称するものなどがそれである。これは通例乾燥無味な表に詰め込んだだらしのないものである。これなどは思い切って切り詰め、年代いじりなどは抜きにして綱領だけに止めたい。・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・正常の教程課目として教わったことで後年直接そのままに役に立ったことは比較的わずかで教程以外に直接先生方から受けた実例教育の外には自分の勝手で自修したことだけが骨身に沁みて生涯の指導原理になっているような気がする。しかし、これは思い違いである・・・ 寺田寅彦 「科学に志す人へ」
・・・工学部の課目中に物理実験を加えるようになったのも同君並びに同志の諸氏の考えが導因となったもののように記憶するが、この点は筆者の思い違いかもしれない。鋭い直観の力で一遍に当面の問題の心核を掴んでしまう。そうして簡易な解析と手軽な実験によって問・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・後に理科大学物理学科の課目として教わったものが「物理学」だとすると、その基礎になるべき「物理そのもの」とでもいったようなものを、高等学校在学中に田丸先生からみっしり教わったというような気がする。この時に教わったものが、今日に至るまで実に頭に・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・あるいはまた津田君の寡黙な温和な人格の内部に燃えている強烈な情熱のほのおが、前記の後期印象派画家と似通ったところがあるとすれば猶更の事であろう。 ある批評家はセザンヌの作品とドストエフスキーの文学との肖似を論じている。自分も偶然に津田君・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
出典:青空文庫