・・・ 女生徒たちは、自分達の教室や校庭を、軍隊に荒らされることは辛く思いながら辛棒していたのに、乱暴にも学生にとって誇りと愛とのしるしである校標を溝へ投げこまれたことについて深い憤りを感じた。みんなの心がそのことを腹立たしく思う気持で結・・・ 宮本百合子 「結集」
・・・小説を書く自分は、辛くなり、原稿紙をかなぐりのけて 眼を動かす。見出そうとするように此心を、さながらに写す 言葉か、ものかを見出そうとするように。 *それは、あの人の詩はよい。優雅だ。 実に驚・・・ 宮本百合子 「五月の空」
・・・考えるべきことは、どんなに辛くとも考え、視なければならないものは、どんな恐ろしいものでも視て、真正な生活に、一歩でも一歩でも近づいて行けさえすればいいのです。 たとい、或る人は声楽家でなくても、美くしい声をもっている方がよいのは、真理で・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ 彼女が死んだときいた時、先生の心には、これほど短く一生を終るのであったら、あんなに辛くは当らなかったものをという思いは湧かなかっただろうか。〔一九二二年六月〕 宮本百合子 「追想」
・・・ もちろん、親達の苦しんでいる様子に対して、それを口に出すことは、いかな彼女等でも出来なかったけれども自分等自身としてはそんなに辛くはなかった。 始終、心から離れない何か陰気な悲しいものがあると彼女等の感じていたのは、事件そのものの・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・自分のヒステリー的傾向。 十日にかえる。自分辛く、顔を見るのが苦痛。うまく笑えず H、A、 西村、「二三度斯ういうことをくりかえして居るうちに、年をとってしまう人かな」涙をながす 若し再び生きてかえれるなら、自分は忻んで死ぬ・・・ 宮本百合子 「「伸子」創作メモ(二)」
・・・ さっきまで、彼の様に自分に深い恵みを垂れて居た神様は、此れから先も、決して自分には辛くばかりは御あたりなさるまいと云う事を、段々彼は感じ始めた。彼の可愛い雌鴨も、自分が又幸福な日に会うまでは、生きてどこかに自分を覚えて居るだろうと・・・ 宮本百合子 「一条の繩」
・・・暮しが辛くなると、戦争でなにかうまいことがありそうに思って来た癖を、また利用されていいものでしょうか。日本の婦人こそ、この第二次世界戦争で一番ひどい犠牲をはらっています。婦人こそ、最も切実に生活の安定と平和のために働く必然があります。 ・・・ 宮本百合子 「婦人大会にお集りの皆様へ」
・・・ 自分は、彼女が、私との関係を、美談的なものにしたく思う心持を、有難く又辛く感じた。「出来る丈のことはするわ、ね」 これが私の、嘘らない心からの返事であった。 やがて、母も西洋間に行かれる。自分は暫く食堂に行き、後、入って行・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・狭い文壇的気流の匂いだの、ゴシップだの、競争だの、いりくんだ利害関係だのから、作家同士或は作家、編輯者との間からは、世が世智辛くなるにつれ、率直さや朗らかさや、呵々大笑的気分は消失して来ているであろう。その内輪で、どちらかと云えば神経質な交・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
出典:青空文庫