・・・関東に往きますと関西にあまり多くないものがある。関東には良いものがだいぶたくさんあります。関西よりも良いものがあると思います。関東人は意地ということをしきりに申します。意地の悪い奴はつむじが曲っていると申しますが毬栗頭にてはすぐわかる。頭の・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・ 坂田は無学文盲、棋譜も読めず、封じ手の字も書けず、師匠もなく、我流の一流をあみ出して、型に捉えられぬ関西将棋の中でも最も型破りの「坂田将棋」は天衣無縫の棋風として一世を風靡し、一時は大阪名人と自称したが、晩年は不遇であった。いや、無学・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・東京人でありながら、早くから東京に見切りをつけて、関西を第二の故郷としておられる谷崎氏の実感の前には、東京文壇の空虚な地方文学論なぞ束になっても、かなわぬのである。 故郷を捨てて東京に走り、その職業的有利さから東京に定住している作家、批・・・ 織田作之助 「東京文壇に与う」
・・・理屈に沈む秋のさびしさ、よりも、理屈をぬけて春のおもしろ、の方が好さそうな訳だ。関西の大富豪で茶道好きだった人が、死ぬ間際に数万金で一茶器を手に入れて、幾時間を楽んで死んでしまった。一時間が何千円に当った訳だ、なぞと譏る者があるが、それは譏・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・ 同時に海軍では聯合艦隊以下、多くの艦船を派出して、関西地方からどんどん食料や衛生材料なぞを運び、ひなん者の輸送をもあつかい出しました。 同日、摂政宮殿下からは、救護用として御内ど金一千万円をお下しになりました。食料品は鉄道なぞによ・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・編集長、田島周二、言葉に少し関西なまりがあるようだが、自身の出生に就いては、ほとんど語らぬ。もともと、抜け目の無い男で、「オベリスク」の編集は世間へのお体裁、実は闇商売のお手伝いして、いつも、しこたま、もうけている。けれども、悪銭身につかぬ・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・私には天国よりも、地獄のほうが気にかかる。関西の豊麗、瀬戸内海の明媚は、人から聞いて一応はあこがれてもみるのだが、なぜだか直ぐに行く気はしない。相模、駿河までは行ったが、それから先は、私は未だ一度も行って見たことが無い。もっと、としとってか・・・ 太宰治 「佐渡」
・・・とにかく、そんな思いをして故郷にたどりついてみると、故郷はまた艦載機の爆撃で大騒動の最中であった。 けれども、もう死んだって、故郷で死ぬのだから仕合せなほうかも知れないと思っていた。そうしてまもなく日本の無条件降伏である。 それから・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・女みたいに意地悪く、男にへんに警戒するような様子もなく、伊豆の女はたいていそうらしいけれど、やっぱり、南国の女はいいね、いや、それは余談だが、とにかくツネちゃんは、療養所の兵隊たちの人気者で、その頃、関西弁の若い色男の兵隊がツネちゃんをどう・・・ 太宰治 「雀」
・・・という雑誌は、ご承知の如く、仙台の河北新報社から発行せられて、それは勿論、関東関西四国九州の店頭にも姿をあらわしているに違いありませぬが、しかし、この雑誌のおもな読者はやはり東北地方、しかも仙台附近に最も多いのではないかと推量されます。・・・ 太宰治 「たずねびと」
出典:青空文庫