・・・古い話ではあるがティコ・ブラーヘの天体観測の結果は、幾度か非科学的な占筮の用にも供せられたのであろうが、結局は名工ケプレルの手によって整然たる太陽系の模型の製作に使われた。ニュートンはまたこのケプレルの作ったものを素材として、さらに偉大な彼・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・そして単に野生の木の実を拾うような「観測」の縄張りを破って、「実験」の広い田野をそういう道具で耕し始めてからの事である。ただの「人間の言語」だけであった昔の自然哲学は、これらの道具の掘り出した「自然自身の言語」によって内容の普遍性を増して行・・・ 寺田寅彦 「言語と道具」
・・・これは数年前京都大学の地球物理学者たちがここにエアトヴァスの重力偏差計をすえ付けて観測した地点を示す標柱だそうである。年々に何百人という登山者のうちで、こんな柱の立っているのに気のつく人はいくらもないかもしれない。まして、その柱の意味を知る・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・また多数の共鳴体を並列して地震動を分析する装置を考案し実際の地震の観測に使用してかなり面白い結果を得た。また構造物の模型実験が従来はいわゆる力学的相似にかまわず行われているのに飽き足らず、この点について合理的な模型を作る方法を考案し、その一・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・ 大正から昭和へかけての妙技無用主義、ジャズ・レビュー時代がどれだけ続いて、その後にまた少し落ち着いてゆっくり深く深く掘り下げて洗練を経たものが喜ばれ尊重される時代が来るか、天文学者が遊星の運動を観測しているような、気長い気持ちで見てい・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・ 昔ある国での話であるが、天文の学生が怠けて星の観測簿を偽造して先生に差出したら忽ち見破られてひどくお眼玉を頂戴した。実際一晩の観測簿を尤もらしく偽造するための労力は十晩百晩の観測の労力よりも大きいものだろうと想像されるのである。・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・かつて誰かが、ある関東の山の上で花火を上げて、高層気象の観測をやろうという提案をした事を思い出して、なるほどこれならば存外ものになりそうだと思いながら見ていた。 なお面白いのは一つ一つの煙の団塊の変形である。これがみな複雑な渦動の団塊で・・・ 寺田寅彦 「雑記(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・ いちばん安全な方法はやはり野外でたくさんの観測を繰り返し、おのおのの場合の風向風速、太陽の高度方位、日照の強度、その他あらゆる気象要素を観測記録し、それに各場合の地形的環境も参考した上で、統計的分析法を使用して、各要素固有の効果を抽出・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・そうだとすると、震源の位地を一小区域に限定する事はおそらく絶望でありまた無意味であろう。観測材料の選み方によって色々の震源に到達するはむしろ当然の事ではあるまいか。今回地震の本当の意味の震源を知るためには今後専門学者のゆっくり落着いた永い間・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・測候所の数には限りあり、観測の範囲、回数にも限定あり。特に高層観測のごとき一層この限定を受くる事甚だし。それにもかかわらず現に天気予報がその科学的価値を認められ、実際上ある程度まで成効しおるは如何なる理由によるべきか。 数十里、数百里を・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
出典:青空文庫