・・・しかし翰の持出したものは、唖々子の持出した『通鑑』や『名所図会』、またわたしの持出した『群書類従』、『史記評林』、山陽の『外史』『政記』のたぐいとは異って、皆珍書であったそうである。先哲諸家の手写した抄本の中には容易に得がたいものもあったと・・・ 永井荷風 「梅雨晴」
・・・そしてその鶴をもってこっちを見ている影ももうどんどん小さく遠くなり電しんばしらの碍子がきらっきらっと続いて二つばかり光ってまたとうもろこしの林になってしまいました。こっち側の窓を見ますと汽車はほんとうに高い高い崖の上を走っていてその谷の底に・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・ 本年の後半に入って、これまで描写のうしろにねてはいられないと、独特の話術をもって作品を送っていた高見順氏が「外資会社」「流木」等、調べた材料によって客観的な小説を書きはじめたことは注目をひいた。石川達三氏「日蔭の村」も或る報告文学の試・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・借りてみるに南翠外史の作、涙香小史の翻訳などなり。 二十三日、家のあるじに伴われて、牛の牢という渓間にゆく。げに此流には魚栖まずというもことわりなり。水の触るる所、砂石皆赤く、苔などは少しも生ぜず。牛の牢という名は、めぐりの石壁削りたる・・・ 森鴎外 「みちの記」
出典:青空文庫