・・・両脚に負傷したことはこれで朧気ながら分ったが、さて合点の行かぬは、何故此儘にして置いたろう? 豈然とは思うが、もしヒョッと味方敗北というのではあるまいか? と、まず、遡って当時の事を憶出してみれば、初め朧のが末明亮となって、いや如何しても敗・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・ 姉が義兄に「あんた、扇子は?」「衣嚢にあるけど……」「そうやな。あれも汚れてますで……」 姉が合点合点などしてゆっくり捜しかけるのを、じゅうじゅうと音をさせて煙草を呑んでいた兄は「扇子なんかどうでもええわな。早う仕・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・ 併し自修ばかりでは一人合点で済まして居て大間違いをして居る事があるものですから、そこで輪講という事が行われる。それは毎日輪講の書が変って一週間目にまた旧の書を輪講するというようになって居るのです。即ち月曜日には孟子、火曜日には詩経、水・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・ それは皆様がマッターホルンの征服の紀行によって御承知の通りでありますから、今私が申さなくても夙に御合点のことですが、さてその時に、その前から他の一行即ち伊太利のカレルという人の一群がやはりそこを征服しようとして、両者は自然と競争の形に・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・えしみかえる限りあれも小春これも小春兄さまと呼ぶ妹の声までがあなたやとすこし甘たれたる小春の声と疑われ今は同伴の男をこちらからおいでおいでと新田足利勧請文を向けるほどに二ツ切りの紙三つに折ることもよく合点しやがて本文通りなまじ同伴あるを邪魔・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・もとより始めは奇怪なことだと合点が行かなかった。別に証拠といってはないのだから、それが、藤さんがひそかに自分に残した形見であるとは容易に信じられるわけもない。しかし抽斗は今朝初やに掃除をさせて、行李から出した物を自分で納めたのである。袖はそ・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・自分に問をかけても見ました、が、合点の行く答えは、何処からも来ません。 或る満月の晩おそく、彼女は静かに部屋の戸を開けて、こわごわ戸外を覗いて見ました。淋しいスバーと同じように、彼女自身満月の自然は、凝っと眠った地上を見下しています。ス・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・ ご亭主は、私の、あの嘘を半ばは危みながらも、それでもかなり信用していてくれたもののようで、夫が帰って来たことも、それも私の何か差しがねに依っての事と単純に合点している様子でした。「私のことは、黙っててね」 と重ねて申しますと、・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・そのうちに、あいつはすっと店の中へ入ってしまったので、私も安心して、その店に近づいて見ることが出来たのだが、なんと驚いた、いや驚いたというのは嘘で、ああそうか、というような合点の気持だったのかな? 野鴨の剥製やら、鹿の角やら、いたちの毛皮に・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・たとえば富岳三十六景の三島を見ても、なぜ富士の輪郭があのように鋸歯状になっていなければならないかは、これに並行した木の枝や雲の頭や崖を見れば合点される。そこにはやはり大きな基調の統一がある。 しかしなめらかな毛髪や顔や肉体の輪郭を基調と・・・ 寺田寅彦 「浮世絵の曲線」
出典:青空文庫