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・・・ よそから毎晩のようにこの置座に集まり来る者二、三人はあり、その一人は八幡宮神主の忰一人は吉次とて油の小売り小まめにかせぎ親もなく女房もない気楽者その他にもちょいちょい顔を出す者あれどまずこの二人を常連と見て可なるべし。二十七年の夏も半・・・
国木田独歩
「置土産」
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・・・あの節廻しは吉次だ。彼奴声は全たく美いよ。 五月十日 外から帰たのが三時頃であった。妻は突伏して泣いている。「どうしたのだ、どうしたの?」と自分は驚ろいて訊いたが、お政のことゆえ、泣くばかりで容易に言い得ない。泣くのはこの女の持・・・
国木田独歩
「酒中日記」