・・・どうせ共稼ぎの結婚なんて馬鹿くさくて、という愛子は妙な男づきあいをしつつ、失業とともに喫茶ガールになってゆく。シゲは全く古い職人肌の亭主をもって、脚気の乳をのまして赤ン坊に死なれたり、これまでの工場が駄目になると、只身を落した気易さだけに満・・・ 宮本百合子 「徳永直の「はたらく人々」」
・・・ 大きい大きいニッケル湯沸しの横に愛嬌のいい小母さんが立って一杯三哥のお茶をのませ、菓子などを売る喫茶部は殷やかな話し声笑い声に満ちている。 体育室の設備のよさは、プロレタリア・スポーツの誇りだ。 医務室がある。 法律相談所・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・温室のようなガラス張の天井があちらに見えた。喫茶室とあるので日本女はその中へ入って行った。沢山の空の籐椅子の上に日光がある。高いガラス天井の下やしゅろの鉢植のまわりを雀が二羽飛び廻っていた。茶番の年とった女がいるだけだ。日本女は英領オースト・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫