・・・サーシャはそれをかけ、キットした様子でゴーリキイを見ながら云った。「球がなくったって一向平気だ。これは、こういう眼鏡なんだから!」 ゴーリキイがたのんだ。「どれ、俺にも見せて!」「お前の目にゃ合わないよ、これは黒眼用だ。お前・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・アナタ、ホントニアタシガカワイイナラ、コノテガミツキシダイ、ヨルノ七時マデニ、イツモノトコロヘキテチョウダイ、キット、キットヨ、デワ サヨナラ コイシキコイシキペテロフサマ シブヤにてアナタノトヨ子」 それは、いか・・・ 宮本百合子 「街」
・・・詩人はそのあとを小走りについて、その時、若しそこに人が居たならそれを何と見たでしょう。キット、古い人のかいた名画の中の人がこの美くしい雪の色に誘われて来たんだと思ったでしょう。旅人は夢のような気持で何か暖いものに抱かれたような気持で歩きまし・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
・・・ 大なる悟の前にはキット迷と疑いがあると同じに、芸術と云うものを或る一種の尊いものにするのには一度は各々が一つずつ芸術を抱えてそれを疑いの目を持ってでも迷ってでも研究して悪くはないと思う。 けれ共研究した最後は一つの尊い人間の特別な・・・ 宮本百合子 「無題(二)」
鴨 青々した草原と葦の生えた沼をしたって男鴨は思わず玉子色の足をつまだてて羽ばたきをした。幾度来てもキット猫か犬に殺されるものときまった様な自分の女房は十日ほど前にまっくろな目ばかり光る魔の様な黒猫にのどを・・・ 宮本百合子 「芽生」
・・・よしんばのってくれたにしろ、キットあなたの御良人の兄さんの大本教信者のように「母は子供のギセイになれ」とか「家庭のことだけしていればよい」とか答えるのが落でしょう。 われわれは違います。こういう問題は、あなた一人だけのことではなく、いろ・・・ 宮本百合子 「「我らの誌上相談」」
出典:青空文庫