・・・わたしたち世界の婦人こそ先頭にたって原子兵器の脅威という現代の悪夢を追いはらいましょう。〔一九五〇年八月〕 宮本百合子 「願いは一つにまとめて」
・・・ クルベルは、夫人をしつこく口説くのであるが、その、あの手この手は悉く男爵家の陥っている経済的困難を中心とする脅威であり、誘惑である。色と慾とに揺がぬ根をはった強い色彩と行動との中にいつしか読者はつり込まれ、「若しも私が貴方のた・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・――ジェルテルスキーは、そのように押しづよい女の四つの目で見つめられる自分の口許に髭の無いことが、変に気になった程、沈黙は脅威的であった。彼は遂に、「では兎も角私の家へお伴しましょう」と云った。「ダーリヤ・パヴロヴナに一度都合を・・・ 宮本百合子 「街」
・・・一家から主人と息子が遠距離通勤、通学していると仮定すれば、それだけでも最低賃銀四百五十円はどんなに脅威を感じるだろう。 更に瞳を転じて先程の戦時利得税、財産税ということをかえり見ると、これらの支払わなければならない税金は、やはり外見上、・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・ わたしたちのように平和の願いの中に生まれ、平和の願いのうちに人間精神をめざまされているフランスの若い世代は、こんにち戦争の脅威のうちにも、やはり考えることは戦争ではなくて、平和である。不幸にも、ふたたびヨーロッパが戦場に化すようなこと・・・ 宮本百合子 「私の信条」
・・・は、ナチスに侵略されたウクライナの農民が、手段の限りをつくした侵略軍の残虐と脅威にさらされながら、ほんとに村中がつりあげられてゆく悲劇にたえながら、人民の最後の勝利を確信し、自由と平和のために赤軍が還ってくることを信じて抵抗しつづけた一つの・・・ 宮本百合子 「ワンダ・ワシレーフスカヤ」
・・・憎悪を帯びた驚異の目とでも言おうか。しかし佐佐は何も言わなかった。 次いで佐佐は何やら取調役にささやいたが、まもなく取調役が町年寄に、「御用が済んだから、引き取れ」と言い渡した。 白州を下がる子供らを見送って佐佐は太田と稲垣とに向い・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・ 庄兵衛は今さらのように驚異の目をみはって喜助を見た。この時庄兵衛は空を仰いでいる喜助の頭から毫光がさすように思った。 ―――――――――――――――― 庄兵衛は喜助の顔をまもりつつまた、「喜助さん」と呼びかけた。・・・ 森鴎外 「高瀬舟」
・・・そうして後に織田信長にとっての最大の脅威となるだけの勢力を築き上げたのである。『朝倉敏景十七箇条』は、「入道一箇半身にて不思議に国をとりしより以来、昼夜目をつながず工夫致し、ある時は諸方の名人をあつめ、そのかたるを耳にはさみ、今かくの如くに・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・しかしそれを目の前にまざまざと見たときには、思わず驚異の情に打たれぬわけには行かなかった。私は永いなじみの間に、このような地下の苦しみが不断に彼らにあることを、一度も自分の心臓で感じたことがなかったのである。彼の苦しみの声を聞いたのは、時お・・・ 和辻哲郎 「樹の根」
出典:青空文庫