・・・薄弱な客観的判断力を、津浪のような軍事的強権で押し流して、その人々の考える「公的」なものの中へ、人民生活の全面を集注させたのであった。 世界連帯のひろやかな展望から見て、旧い領土問題から出発した「日本のため」という観念が、どんなに狭い限・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・ 其の一口に申せば生温るさに、満ち足りなかった男性の心は、此国の強健な肉体と、少くとも自己を主張し得る女性の「張り」に、甦ったような解放を感じずには居られないのでございます。弾力のある心、態度の快さに目の覚めるような鮮やかさを感じます。・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・理想とする完全な個人主義の花盛りにまでは、人類として、歴史的にまだ多くの忍耐と時間とを要するとしても、既にその可能は見とおされている新社会の民衆の個性の発展の本質的意味を、明瞭に描き出し、横行している強権に対立するものとして示すことが出来な・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・月号の部分では最も明瞭に且つ重点をそこにおいて企業内の反動政策との闘争について書いているのに肝心のそのところはちっとも理解せず、同志伊藤や笠原という婦人を書いたとこだけをとりあげ、同志小林が女に対して強権的ではなかったかなどと結果においてデ・・・ 宮本百合子 「小説の読みどころ」
・・・、当時の日本の権力が戦争推進のためどんなに現実を歪めた観念を社会のあらゆる面に流布しはじめたかということと、近代市民社会の生活史をもたない日本の文化人が自身の内なる封建性と非社会性によってどんなにその強権に屈伏したか、それらとのたたかいは、・・・ 宮本百合子 「序(『歌声よ、おこれ』)」
・・・ 支那古来の聖人たちは、いつも強権富貴なる野蛮と、無智窮乏の野蛮との間に立って彼等の叫びをあげてきた。「男女七歳にして席を同じゅうせず」しかし、その社会の一方に全く性欲のために人造された「盲妹」たちが存在した。娘に目があいてるからこそ客・・・ 宮本百合子 「書簡箋」
・・・一見、愚劣と思われ、誰しも反対すると思われる方策を、政府が強権によって発動させる、という、その技術上の意味を、わたしたち人民は見抜く必要があるのではなかろうか。 宮城のみならず、おそらく、日本じゅうのあらゆる農村で、強制供出案は、うけい・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・局云々の考えかたを、そのようにケシかけたりするのは意外のようであるとし、山本有三、佐藤春夫、三上於菟吉、吉川英治その他が組織した文芸院の仕事の価値をも言外にふくめて「文学者がさもしい根性を出して俗界の強権者の保護を求めたりするのは、藪蛇の結・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・文学にたずさわる人々をこめた人民感情そのものの中に、自主たろうとするやみがたい熱望が覚醒していないために、これらの人々にとっては自主でなければならない、という民主主義のよび声は、自分のそとから、一種の強権の号令であるかのようにきこえるらしい・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・自分たちがまた再び外からの強権によって、死ぬる場所に追い立てられることは欲していない。愛するものを死なせる女たちではあるまいとしている。アジアの敵であり、日本人民の生命を売るものとして行動したいと思ってはいないのである。数百万人の戦争未亡人・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
出典:青空文庫