・・・折から、好況後の経済恐慌によって世間は鋭く現実に目を醒されたと同時に、文学の領域に力強い波頭をもって大衆というものが登場しはじめた。勤労するこの社会の大多数者の芸術化の要望が湧き上って、過去の文学の形式、内容は、全く新しい光りの下に見直され・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・ ヨーロッパ大戦後の文学を支配していた心理分析、潜在意識の生活を追究する唯心的な文学は、一九二九年のヨーロッパの大恐慌とその社会事情の変化によって別な人間生活の総体において表現しようと欲する文学運動に道を拓いた。一九三〇年頃からアメリカ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・農村の文化水準は低く、農民は楽しみの少い暗く苦しい日常を送っているのである。農村の恐慌は農民から新聞さえ奪ってしまっているのが今日の現実である。そもそもなぜ農村と都会との間にこのような文化のおびただしい相違が起るのであろうか? 元来、資本主・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・社会主義リアリズムの問題はそのものとして、治安維持法の改悪からひきおこされたさけがたい恐慌は恐慌として、率直明白に別な二つの問題として取扱うところまで、当時のプロレタリア文学者たちは社会人として、理論的に成熟していなかった。悪法によって恐慌・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・ 世界的な経済恐慌は、この地球の上六分の一を除いたあらゆる国々において、健康で真率な心を持った若い男女を、結婚の問題で苦しめている。結婚年齢のおくれることが一般の傾向となって来たのにたいし、アメリカの百万長者の息子と娘らの間に一つの流行・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・こんにちの状況に、最近三年の間強行されつづけて来た言論圧迫の影響と結果を見ようとされていない。ゆうべNHKの街頭録音は、「政党は選挙公約の実現に努力したか」という題目であった。「はい、そこにいらっしゃるお若い方」と指されて答えた人は自由党支・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・十数年にわたった過去の戦争の年々、人間性をさかむけにする破壊的な戦争強行の現実のなかで、一年一年死の予想を前にして成長しつつあった青年たちは、その中で絶望を支え、人間として生きる精神の拠りどころを何に求めただろう。 日本の治安維持法の非・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・闇の親分といい、犯罪的行為といい、それは非道な戦争の強行と、その後の社会生活の破綻が、根本の原因です。人口の大部分を占めている勤労者の生活の不安が解決されないまま、その結果にあらわれた誰の目にも悪いものを掃除したとしても、根本矛盾がそのまま・・・ 宮本百合子 「社会と人間の成長」
・・・この事件も、下山氏の死にからんで強行されようとした何かの政界の失敗であり、この失敗そのものが、逆に下山氏の死の微妙ないきさつについて、暗示するところもあるかのようである。 七月十二日の新聞をみると国鉄は十三日から第二次整理六万五千人を行・・・ 宮本百合子 「「推理小説」」
・・・その証明として、今度の第二次世界大戦に参加した日本の非道な軍事強行が進むにつれ、他ならぬこの純芸術性の擁護者であった中村武羅夫が先頭の一人となって、急速に、徹底的に日本の旧文学を、軍事暴力の政治抑圧に屈伏させた。そして文学の真に芸術としての・・・ 宮本百合子 「生活においての統一」
出典:青空文庫