・・・ 日本のファシズムが露骨に言論統制をはじめ、文化抑制を強行し、文学者の存在権は文学上の業績ではなくて軍御用の程度によって保障されるようになって行ったとき、ファシストでない大多数の人々は、もちろんその軍部の乱暴を感じていた。無知、野蛮な専・・・ 宮本百合子 「世紀の「分別」」
・・・何しろ戦争が強行された十数年間日本のすべての理性と人間らしい一人一人の「自分」は殺されていたのだから。そしてその十数年間に生長してきた人々の青春は、青春というのも恐ろしい程人間の自然な開花から遠いものであった。明治以来の思想史の中で、近代的・・・ 宮本百合子 「前進的な勢力の結集」
・・・一九三三年、日本の権力が戦争強行の決意をかためて、言論・思想の自由を奪い、文学を戦争宣伝の方向に利用しようとしはじめた時、プロレタリア文学運動は禁圧された。 プロレタリア文学運動が窒息させられたことは、ただプロレタリア文学運動だけの問題・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・インテリゲンツィアの勤労者階級化の傾向はこれに応じて必然に生じたのであり、更に一九二九年の恐慌以後今日に至る一般の不況は、益々深刻にこの社会的現象を展開させている。十年前に労働予備軍に加った人々の生活が低下しつつある傍ら、新しい青年層の無産・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・戦争を強行するためには、すべての人民が、理不尽な強権に屈従しなければ不便であった。その目的のために、考え、判断し、発言し、それに準じて行動する能力を奪った。外的な一寸した圧力に、すぐ屈従するように仕つけた。無責任に変転される境遇に、批判なく・・・ 宮本百合子 「その源」
・・・日本がこの十数年間、戦争強行の目的のために、インテリゲンツィアが知識人として存在するあらゆる存在機能を奪っていたことが、その変化の原因となっているのである。自主的な判断というものと、自主的に社会生活を営む自由とを人民一般が奪われていたとき、・・・ 宮本百合子 「誰のために」
・・・ 昭和十三年―十五年という年は、一方に戦争が拡大強行されて、すべての文化・文学が軍部、情報局の統制、思想検事の監視のもとにおかれるようになりはじめた時代だった。これまでの文学が、しかけていた話の中途でその主題をさえぎられたように方向を失・・・ 宮本百合子 「壺井栄作品集『暦』解説」
・・・がないから、自分の方の雑誌には不適当だという強硬な意見がつよくて、失礼であるが御返しする。尤も考えてみれば刑務所への手紙は幾重もの検閲を経るのであるから、はっきりしたことの書けるわけはなかったのに、思慮が足りなくて陳弁された。 原稿は、・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
・・・しかしやがて、文学の最後の小石のような真実も戦争強行の波におされて婦人作家も南や北へ侵略の波とともに動くようになった。 執筆三月。その年。九月。杉垣。この初冬。まちがい。十一月。芭蕉について。十二月。おもかげ。・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・今度出獄したすべてのものが治安維持法の尊敬すべき犠牲者、英雄のように新聞やラジオで語り、語られているのであったが、その中に、元来が積極的な戦争強行論者で、その点が当時として反政府的であったために拘禁されていたというような人物までがまじってい・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫