・・・それを訳したことを誇らかに思うような一つの偉大な、善意と努力に満ちた文章であったとしたら、訳者たる者はどこの隅にか自分の人間的寄与の跡をとどめたいと希わなかっただろうか。 現実に対する洞察、理解、働きかけが、外見は全く同一のような二つの・・・ 宮本百合子 「こわれた鏡」
・・・ ところで、これらのプロレタリア新進作家や旧インテリゲンチア作家たちは、それぞれ多種多様な発展の段階にあって、プロレタリアートの世界観とその複雑多岐な実践に結びつけられ建設に寄与するものであって、社会主義建設の見とおしと方向において一致・・・ 宮本百合子 「社会主義リアリズムの問題について」
・・・結婚、恋愛により人間としての生活を豊富にしてゆかなくてはならないのですけれど、その障害となる現代のいろいろな世相に対して、合理的な解決法としては組合などが、若い人々の生活に寄与してゆかなくてはならないと思います。各職場の組合の団結の力で具体・・・ 宮本百合子 「人生を愛しましょう」
・・・ジダーノフの報告に警告されている、ソヴェト作家の外国文学追随の弱点というようなことは、シーモノフの一例でも見られるとおり、ソヴェト社会が、人類の歴史にもたらしつつある寄与の大きさによって、国際的となりはじめた若い有能な作家・技術家・諸市民が・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・私は、個人的なものの考え方で、すべての毀誉褒貶を皆自分のこやしとして、自分が正しいと思う方へひたすら伸びてゆくこと、そして、よかれあしかれ自分の生きっぷりと、そこから生れる仕事で批評をつき抜いて行くこと、それを心がけとしてやっていた。 ・・・ 宮本百合子 「近頃の感想」
・・・大いに期するところは、人類と文学との継続の鎖に更に輝やかしい一環を寄与したい心であると思う。その心の動因は、人間精神の成長とその合理への方向への信頼であり、他の面からそのことを云えば、不合理なものへの承服しがたさへの確信と、その承服しがたき・・・ 宮本百合子 「地の塩文学の塩」
・・・にも同じ傾きとして、浮薄な世間の毀誉褒貶を憤る心が沁み出ている。これは、『若菜集』によって、俄に盛名をあげた藤村がこれまでと異った身辺の事情・角度から人生の波の危くしのぎがたいのを感じた心の反映として深い興味を覚える。 この境地から脱し・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・一人の人間が生きることは、何等かの意味で認識の拡張を意味し、屡の失敗に於てさえも尚、貴重な経験の一部を、全群の生存の為に寄与しているからこそ、長時間の生活、日々が愛され、尊まれたのです。 この時代から見れば、私共現在生きる社会は、原人の・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・この柵草紙の盛時が、即ち鴎外という名の、毀誉褒貶の旋風に翻弄せられて、予に実に副わざる偽の幸福を贈り、予に学界官途の不信任を与えた時である。その頃露伴が予に謂うには、君は好んで人と議論を闘わして、ほとんど百戦百勝という有様であるが、善く泅ぐ・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
出典:青空文庫