・・・腕が螺旋のように相手の肉体へきりきり食いいるというわけであった。 つぎの一年は家の裏手にあたる国分寺跡の松林の中で修行をした。人の形をした五尺四五寸の高さの枯れた根株を殴るのであった。次郎兵衛はおのれのからだをすみからすみまで殴ってみて・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・が生物のように緩やかに揺曳していると思うと真中の処が慈姑の芽のような形に持上がってやがてきりきりと竜巻のように巻き上がる。この現象の面白さは何遍繰返しても飽きないものである。 物理学の実験に煙草の煙を使ったことはしばしばあった。ことに空・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・それから一寸立ち上ってきりきりっとかかとで一ぺんまわりました。そこでマントがギラギラ光り、ガラスの沓がカチッ、カチッとぶっつかって鳴ったようでした。又三郎はそれから又座って云いました。「そうだろう。だから僕は君たちもすきなんだよ。君たち・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・ その時風がざあっと吹いて来て土手の草はざわざわ波になり、運動場のまん中でさあっと塵があがり、それが玄関の前まで行くと、きりきりとまわって小さなつむじ風になって、黄いろな塵は瓶をさかさまにしたような形になって屋根より高くのぼりました。・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・それ所ではなく、小猿がみんな歯をむいて楢夫に走って来て、みんな小さな綱を出して、すばやくきりきり身体中を縛ってしまいました。楢夫は余程撲ってやろうと思いましたが、あんまりみんな小さいので、じつと我慢をして居ました。 みんなは縛ってしまう・・・ 宮沢賢治 「さるのこしかけ」
・・・土神はまたきりきり歯噛みしました。 樺の木は折角なだめようと思って云ったことが又もや却ってこんなことになったのでもうどうしたらいいかわからなくなりただちらちらとその葉を風にゆすっていました。土神は日光を受けてまるで燃えるようになりながら・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・山塞の頭になった役者が粗末な舞台で、「ええ、きりきりあゆめえ!」と声を搾って大見得を切った。「そこだッ!」 むきだしな花道の端れでは、出を待っている山賊の乾児が酔った爺にくどくど纏いつかれている。眼隈を黒々ととり、鳥肌立って・・・ 宮本百合子 「山峡新春」
出典:青空文庫