・・・私の知識と意志で出来るだけ衛生に叶った生活法をやって行って、さて、主観的に自覚されない微妙な均衡の破れで、不意と私が生きつづけられなくなったとしたら、其はどうも困るわ、貴方には、御免下さい、と云うしかない。父と私との実に充実した情愛を包む各・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・そして、現代における大きい典型の再発見の妙味は、それが、ルネッサンスの世界、バルザックの世界にあるように、怪物同士、典型間の力の不均衡と矛盾を通してだけ見られているのではないという点である。頭をあげて、人民の理性が立ちあがったその眼が、その・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・それは頷ずけるが、教育あり、現代の社会に批判もある筈の人が、非常に不運な事情の廻り合わせで或る均衡を失い罪を犯し、獄中生活を経験した場合でさえ、その制度、内容について客観的な評言が世に与えられないのは何故であろう。自分の行為に対する引責――・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・そこに文学が大衆の生活との繋りを失う原因があるのであるから、新しい文学の方向としては、この両者の距離を埋めるような均衡を見出してゆくようなものが求められると言っている。 作家武田麟太郎氏は、日本文学の庶民性を主張しつつある作家である。日・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ そもそも、現在の感化院というのは、いかなる人間的生活を目標において、不幸な、性格の弱い、均衡の失われた少年らを、感化してゆこうというのであろうか。答えは、比較的簡単に、かつ明瞭に、出されているのであろうと思う。人格のある、勤労をこ・・・ 宮本百合子 「作品のテーマと人生のテーマ」
・・・アランに云わせると、散文は自己自身と他からの働きかけとの間の調整を求めるのを法則としていて、従って外的ないろいろな力に追いまわされもするものであるが、歌・詩は、自己の均衡の上に築かれていて自身の諸部分のあいだに諧和を求めるもの、従って歌は人・・・ 宮本百合子 「作品のよろこび」
・・・ 毎日新聞のこの方法は、何回かの調査のうちに或る均衡を見出そうとするある試みであったかもしれないが、文化賞のための具体的根拠とはなり得なかった。文学の委員会は、それらの調査のどこにもあらわれていない「中島敦全集」とその出版社に文化賞を与・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・従って、文学における自然の範囲は、街頭、公園、近郊に多くとどまっており、あるいは通俗小説の場面としては落すことのできない近代スポーツの背景として北国の雪景、またはドライヴの描写としての京浜国道がとり入れられ、いずれにせよ、大部分享楽的消費的・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・ましてや、こんにちの嶮阻な時代と闘う人間の情熱、複雑困難な現実を把握しようとする意企から芸術的均衡が破れているというようなのは見当らない。多くの作品は、共通に、作家の芸術的確信の喪失、自身が作品において主張し得る社会性、存在権に対する懐疑か・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・ 藤原時代の栄華の土台をなした荘園制度――不在地主の経済均衡が崩れて、領地の直接の支配者をしていた地頭とか荘園の主とかいうものが土地争いを始めた。その争いに今ならば暴力団のような形でやとわれた武士が土地の豪族の勢力と結んで擡頭して来て不・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
出典:青空文庫