・・・ 近世倫理学史も、哲学史のように、カントに集まって、カントから出て行く。カントの形式的倫理学に反対したのは実質的倫理学だけではなく、ギヨーや、ディルタイの如き生命主義の倫理学や、フォイエルバッハから、エンゲルス、マルクス、カウツキーにい・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・曰く、「京管領細川右京太夫政元は四十歳の比まで女人禁制にて、魔法飯綱の法愛宕の法を行ひ、さながら出家の如く、山伏の如し、或時は経を読み、陀羅尼をへんしければ、見る人身の毛もよだちける。されば御家相続の子無くして、御内、外様の面、色諫め申しけ・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・外国でも遠くはデカメロンあたりから発して、近世では、メリメ、モオパスサン、ドオデエ、チェホフなんて、まあいろいろあるだろうが、日本では殊にこの技術が昔から発達していた国で、何々物語というもののほとんど全部がそれであったし、また近世では西鶴な・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・幼少のころには、も少し形の均斉もとれていて、あるいは優れた血が雑っているのかもしれぬと思わせるところあったのであるが、それは真赤ないつわりであった。胴だけが、にょきにょき長く伸びて、手足がいちじるしく短い。亀のようである。見られたものでなか・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・この建物はきわめて原始的であるが一種の均整の美をもっている。素人目にはわが大学の安田講堂よりもかえって格好がいいように思われる。デテイルがないだけに全体の輪郭だけに意匠が集注されるためかもしれない。 インパラという動物の跳躍も見物である・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 西鶴の人についてもあまりに何事も知らな過ぎるから、この際の参考のためにと思って手近にあった徳富氏著『近世日本国民史、元禄時代』を見ていると、その中に近松と西鶴との比較に関する蘇峰氏の所説があって、その一説に「西鶴のその問題を取扱うや、・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・「海底旅行」や「空中旅行」「金星旅行」のようなものが自分の少年時代における科学への興味を刺激するに若干の効果があったかもしれない。 洪水のように押し込んで来る西洋文学の波頭はまずいろいろなおとぎ話の翻訳として少年の世界に現われた。おとな・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・日本ではまず第一に自然の慈母の慈愛が深くてその慈愛に対する欲求が満たされやすいために住民は安んじてそのふところに抱かれることができる、という一方ではまた、厳父の厳罰のきびしさ恐ろしさが身にしみて、その禁制にそむき逆らうことの不利をよく心得て・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・それは、理化学の進歩の結果としてあらゆる交通機関が異常に発達したのはよいが、その発達が空間的時間的に不均整なために、従来は接触し得なかったような甚だしい異質的なものの接触が烈しくなり、異質間の異性質のグレディエントが大きくなった。そうして、・・・ 寺田寅彦 「猫の穴掘り」
・・・は、物質の原子はちょうどアルファベットのようなもので、種々な言語が有限なアルファベットの組み合わせによって生ずるごとく、各種の物質がこれら原子の各種の組み合わせによって生ずると書き残したが、この考えは近世になって化学式というものによっていく・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
出典:青空文庫