・・・光った藁のような金星銀星その他無数の星屑が緑や青に閃きあっている中程に、山の峰や深い谿の有様を唐草模様のように彫り出した月が、鈍く光りを吸う鏡のように浮んでいます。白鳥だの孔雀だのという星座さえそこにはありました。凝っと視ていると、ひとは、・・・ 宮本百合子 「ようか月の晩」
・・・ ――宗教とはいかなる禁制をも意味しない。ただ諸君とおよび諸君の光栄ある子孫の一生のための秩序、原則としての宗教あるのみである。 少年団大会出席のためロンドンへ出て来た大男の団長が実用的なことは靴とひとしい説教の間にそろりそろりと裸・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・どんな哲学者も、近世になっては大低世界を相待に見て、絶待の存在しないことを認めてはいるが、それでも絶待があるかのように考えている。宗教でも、もうだいぶ古くシュライエルマッヘルが神を父であるかのように考えると云っている。孔子もずっと古く祭るに・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・ 日本支那の古い文献やら、擬古文で書いた近世人の著述やらが、この頃沢山に翻訳せられます。どれもどれも時代が要求しているのかも知れませんが、わたくしのほしいと思う本は、その中に余り多くないのでございます。中には近世人の書いた、平易な漢文を・・・ 森鴎外 「『新訳源氏物語』初版の序」
・・・ フロベニウスはそこに教養の均斉を見いだした。上下がこれほどそろって教養を持っているということは、北方の文明人の国にはどこにもない。 が、この最後の「幸福の島」もまもなくヨーロッパ文明の洪水に浸された。そうして平和な美しさは洗い去ら・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫