・・・郡役所の技手 山男はおもわず指をくわえて立ちました。するとちょうどそこを、大きな荷物をしょった、汚ない浅黄服の支那人が、きょろきょろあたりを見まわしながら、通りかかって、いきなり山男の肩をたたいて言いました。「あなた、支那反物よろし・・・ 宮沢賢治 「山男の四月」
・・・恩賜の義足、恩賜の義手、何という惨酷な、矛盾錯倒した表現であろう。民草、または蒼生と、ひとりでに地面から生え、ひとりでに枯れてゆくもののような言葉でよばれた日本の幾千万の人民が、その命に何かの重大な価値を自覚する機会は、戦争という形でしか与・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・自動車は門外の向側に停めてあって技手は襟をくつろげて扇をばたばた使っている。 玄関で二三人の客と落ち合った。白のジャケツやら湯帷子の上に絽の羽織やら、いずれも略服で、それが皆識らぬ顔である。下足札を受け取って上がって、麦藁帽子を預けて、・・・ 森鴎外 「余興」
出典:青空文庫