・・・一人の労働者の若者を主人公として、その家庭的苦境と職場での日和見的勢力との苦闘を、当時の一つの階級的現実として描いた作品であった。苦渋な、しかし真摯な作品である。「小祝の一家」が雑誌『文芸』に発表されて程なく、一九三三年十二月二十六日宮・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・ みずから山河巨大な中国に生れ合わした人民の一人として、中国の民衆生活を衷心から愛し、おかれている苦渋の生活を哀惜し、その未来の運命の発展に対して限りない関心をもっている。そのこころが溢れている。ロシア文学史の十八世紀末から十九世紀の間・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・ これらの過程に、民主的な文学者が、心に苦汁をかみしめながら、日本文学の問題として、文学全野にこの問題を語りかけなかったのは何故だったろう。わたしは、自分について調べてみたい。それは、やっぱり民主的文学者としてのわたしの政治的生きかたの・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
・・・作者自身としては題材のむずかしさ、苦しさに力の限りとっくんでゆく努力に自覚をあつめているうちに、この作家がこれまでかいて来た平明で、まとまりよくおさめられた作に見られなかった苦渋をにじませた。常識と分別、ひとがらのかしこさがくつがえされて、・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・の文章、描写の方法――貴方が「読み辛い苦汁のような」と言っていられる文章にもあらわれていると思います。 そしてこの文章の特徴は、作家藤村の本質的なものの表現として、「夜明け前」・藤村が批評される場合におとしてはならぬ点と思う。リアリステ・・・ 宮本百合子 「「夜明け前」についての私信」
・・・とともに境遇的描写の範囲で少年の生活の苦渋を描いている。 二三年前、坪田譲治などの子供の世界を描いた作品が流行したことがあった。が、あの時代の作品でも、稚さから若さに発展しようとする人間の肉体と精神とが、今日の現実のうちに遭遇する種々様・・・ 宮本百合子 「若き精神の成長を描く文学」
・・・落ちつけないという断念に――すなわちこの世を苦渋の世界と観ずることに、落ちつきを求めるか。あるいは絶対の力にすがるか。あるいはなすべきことをなし切らない自己を鞭うつか。あるいは社会の改造に活路を認めるか。――それらはおのおの一つの道である。・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
出典:青空文庫