・・・一八二五年、ロシアでは有名な十二月党の反乱が悲劇的終結をとげた年、愈々この出版事業にとりかかった二十六歳のバルザックは、自分から活字屋になり、印刷屋になり、本屋にまでなって悪戦苦闘したのであったが、この金銭争奪で未熟な事業家バルザックがその・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・のを感じ、「女性らしい一くさりの插話さえもない誠に殺風景な苦闘史」であったと見ている。そして、「私はここでも、芸術の道すらも――或いは芸術の道であるためより深刻に――生活に困らない人間でなくては、とうてい出来ない仕事であると痛切に感じさ・・・ 宮本百合子 「見落されている急所」
・・・そして、今なお、一生懸命にふり出した時の希望をすてず、悪戦し苦闘している女の仲間を、憫然らしく流し目にみる。ものわかりのわるい人たちとしてみる。 若さを喪失することにある悪は、フランスの貴族的な女詩人マダム・ノアイユが詠歎したような哲学・・・ 宮本百合子 「ものわかりよさ」
・・・作品でない日記をよむと、一葉が生活と苦闘して、女が社会からうけている扱い、又女同士の間、文学の仲間たちにさえある貧富の懸隔とその心理などについてどんなに鋭く感じ、疑い、悩んでいるかがよくわかる。しかし、当時の彼女の「文学」という観念は、それ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・個性と愛とを大きくするための主我欲との苦闘。主我欲を征服し得ないために日々に起こる醜い煩い。主我欲の根強い力と、それに身を委せようとする衝動と。愛と憎しみと。自己をありのままに肯定する心と、要求の前に自己の欠陥を恥ずる心と。誠実と自欺と。努・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
出典:青空文庫