・・・ 私には、たとい良人の形体は地上から消滅しても、彼の全部は、皆、彼との結婚後更生した自己の裡に、確に、間違いなく生きているのだ、という全我的の信仰、安住も持ち得ないのです。 現在、私の心を満し、霊魂を輝やかせ、生活意識をより強大にし・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・では、当時文壇や一般知識人の間に問題とされていた思想の諸課題、例えばヒューマニズムの問題、知性の問題、科学性の問題などをそのまま職場へ携帯して行って、そこでの現実の見聞、情景、插話の中から、携帯して行った観念を背負わせるにふさわしいと思われ・・・ 宮本百合子 「「結婚の生態」」
・・・女性にとって結婚とそれにひきつづいての家庭生活とは一つのものでありながらまた二つのものであって、ある人と結婚してもよいという気持と、在来の家庭の形態の中で女性が強いられて行かなければならないものをそのまま承引しかねる気持とは、若い向上欲のあ・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・ 女性として男性に結ばれてゆく自然さを自分に肯定しようとする積極の面と、そのことが習俗的にもたらす形体が与える負担のうけがい難さとの間に生じる感情の分裂が、結婚はしたくないが子供は欲しいといういっそう矛盾した表現に托されたのであったと思・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・彼等が闘いとった権力をもう二度とツァーに返すものかという決意が、まざまざ読みとれ、彼等はやはり言葉すくなに、携帯品預所でめいめいの手荷物をうけとり、職場へ戻って行くのであった。 日本のこの留置場の有様が、そうやって革命博物館の内にそっく・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・などでは、当時文壇や一般に課題とされていた知性の問題、科学性の問題、ヒューマニズムの問題などを、ちゃんと携帯して現地へ出かけて行って、そこでの見聞と携帯して行った思想とを一つの小説の中に溶接して示そうとした。 この作品は他の理由から物議・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・作者はその一二年来文学及び一般の文化人の間で論議されながら時代的の混迷に陥って思想的成長の出口を見失っていた知性の問題、科学性の問題、人間性の問題などを作品の意図的主題としてはっきりした計画のもとに携帯して現地へ赴いた。そこでの現実の見聞を・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・夕飯前の一散歩に、地図携帯で私共は宿を出た。彼此五時頃であったろうか。 雨あがりだから、おっとりした関西風の町並、名物の甃道は殊更歩くに快い。樟の若葉が丁度あざやかに市の山手一帯を包んで居る時候で、支那風の石橋を渡り、寂びた石段道を緑の・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・ スムールイの黒トランクの中には『ホーマー教訓集』『砲兵雑記』『セデンガリ卿の書翰集』『毒虫・南京虫とその駆除法、附・此が携帯者の扱い方』などという本があった。始めの方がちぎれて無くなってしまっている本。終りがない本。そういう本がつまっ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・初めはマカロニ箱にこしかけて、『ホーマー教訓集』『毒虫、南京虫とその駆除法、附・之が携帯者の扱い方』などという本を音読させられた。が、だんだん『アインホー』を読み、『捨児トム・ジョーンズの物語』を読み、「知らず知らずの間に読みなれて」彼にと・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
出典:青空文庫