・・・ 十一時までに入らないといけないということをきいたので、議事堂の建物からいえば横裏にあたる門から入って行ったら、もうぎっしりの人の列であった。携帯品預かり所の印半纏の爺さんが「細かいものは風呂敷に包むなり、ポケットへ入れるなりして下・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
・・・ 携帯品あずけ所と洗面所は清潔だ。民衆にとって残念なことにはその心持いい水洗便所を利用するために通って来る暇が彼らにないということである。 いくら笑っていても日本女は英国人の愛するお伽噺の女主人公美しきシンデレラではなかった。既に過・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・どこの煙筒からも煙の出ないころだったが、ここの高い煙筒だけ一本濛濛と煙を噴き上げていた。携帯品預所の台の上へ短剣を脱して出した栖方は、剣の柄のところに菊の紋の彫られていることを梶に云って、「これ僕んじゃないのですが、恩賜の軍刀ですよ。他・・・ 横光利一 「微笑」
・・・人間を取り巻く植物、家、道具、衣服等々の細かな形態が、深い人生の表現としての巨大な意義を、突如として我々に示してくれる。風物記はそのままに人間性の表現の解釈となっている。特に人間の風土性に関心を持つ自分にとっては、これらの風物記は汲み尽くせ・・・ 和辻哲郎 「『青丘雑記』を読む」
・・・これらの演劇形態について詳しい知識を有する人が、一々の動作の仕方を細かく分析し比較したならば、そこにこれらの芸術の最も深い秘密が開示せられはしまいかと思われる。 一、二の例をあげれば、人形使いが人形の構造そのものによって最も強く把握して・・・ 和辻哲郎 「文楽座の人形芝居」
出典:青空文庫