・・・いつも継母に叱られると言って、帰りをいそぐ娘もほっと息をついて、雪にぬらされた銀杏返の鬢を撫でたり、袂をしぼったりしている。わたくしはいよいよ前後の思慮なく、唯酔の廻って来るのを知るばかりである。二人の間に忽ち人情本の場面がそのまま演じ出さ・・・ 永井荷風 「雪の日」
・・・我輩は朝夕この女聖人に接して敬慕の念に堪えんくらいの次第であるが、このペンに捕って話しかけられた時は幸か不幸かこれは他人に判断して貰うより仕方がない。日本にいる人は英語なら誰の使う英語でも大概似たもんだと思っているかも知れないが、やはり日本・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・うちの御母様のお母様は継母だったんですって、今でも辛かったってよく仰云るわ、だから私御同情するのよ」 こんなに云われると、只さえ淋しい、悲しい心持になっている政子さんは、堪らない心持になってしまいました。 芳子さんが不親切なのだと、・・・ 宮本百合子 「いとこ同志」
・・・この笑いを作者は、惨酷に甚兵衛を扱いつづけていた継母、異母弟への報復の哄笑として描き出している。義民、英雄というものに向けられて来た、盲目な崇拝の皮を剥いで示そうとしているのである。「極楽」の退屈さに苦しんで、地獄を語り合うときばかりは・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・ お年も未だ若く御良人に対する深い敬慕や、生活に対しての意志が、とにかく、文字を透して知られているだけでも、或る親しみを感じるのは当然でありましょう。 その方が良人を失われた――而も御良人の年といえば、僅かに壮年の一歩を踏出された程・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・ 太平洋の上に横たわる細長い小さい島の日本、そこに生まれ、苦しみ、破壊の中から人民の国日本を建設しようとしている婦人大衆の敬慕に満ちた挨拶をおくります。〔一九四七年三月〕 宮本百合子 「国際民婦連へのメッセージ」
・・・さもなければ、継母、継子の悲惨な物語か曾我兄弟のような歴史からの読物である。普通の子供が毎日経験している日常生活そのものを題材としてとりあげて、その中から子供の心に歓びや緊張、努力、風情、健全な想像力をひき出してゆくような物語というものは、・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
・・・ この光景から、私は漱石の小説を思い出したし、また、沢山の世界の継母、継子のお伽話を思い出したのです。私どもが子供のうちからきいているいろいろなお話の中の継母、継子の話というものは、世界共通のいつもいつも真先に涙を絞らせたテーマです。本・・・ 宮本百合子 「社会と人間の成長」
標準時計 福井 地震と継母 Oのこと mammy のこと aと自分 ○祖父母、母、――自分で三つの時代の女性の生活気分と時代に至るを、現したい。 ――○―― 国・・・ 宮本百合子 「一九二三年夏」
・・・三右衛門の女房は後添で、りよと宇平とのためには継母である。この外にまだ三右衛門の妹で、小倉新田の城主小笠原備後守貞謙の家来原田某の妻になって、麻布日が窪の小笠原邸にいるのがあるが、それは間に合わないで、酒井邸には来なかった。 三右衛門は・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫