・・・その電話は八王子管理部から国警本部へ入ったものであるが、この電話の「入手径路は捜査されていない」。この電話でみれば、何処よりも先に国警本部が事件の起きることを予知していたわけです。電車がぶつかってめちゃめちゃになった三鷹の交番に警官は一人も・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・などは、早苗姫が自殺してからの信玄の心理的経路が鮮明に描かれていなかったらしい為に、肝心の幕切れで、信玄と云う人格、早苗姫の死が、一向栄えないものになったように見える。 作者は、所々で、信玄を、英雄的概念から脱した人間らしい一性格として・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・ 大抵の時には、悪い結果のみを多く得るものである、それだから、何かの話ついでに、分りもしない人が戯曲の主人公の性格や経路を引き出したりすると、思わぬあて違いをするものだ。 そう云う癖は一体に少し文学などをかじりかけた中年の男女が、自・・・ 宮本百合子 「雨滴」
・・・これは、ヴォルガ河の沿岸にあるシロコイエ村の貧農たちが、荒れきったブルスキーという土地を貰ってそこで村の富農の侮蔑や陰険なずるさと戦いながら集団農場を組織する経路を書いた長篇である。上巻だけで日本訳は六百頁余もある。英訳もある。 トポー・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・やはり同じ径路を繰り返す。 可哀そうになって、私は雛の剥製を籠から出してしまった。そしてもう見えない処に置き、また様子を窺った。 余程空腹であったと見え、戻った雌が再び下りて来る。実に注意し、気の毒なほど頭を動かし、そろそろ逃げる用・・・ 宮本百合子 「小鳥」
・・・今時の女、それにまだ二十にもならない女が大胆に自分の思って居ることを人に告げる、その事も主人の弟を思って居た事を主に告げる、あまり大胆な仕業であるが―― 殿は斯う思って迷った、けれ共常からどこか毛色の変った学問の深い考のある女の事だから・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・と言い、おばあさんが奇妙に警戒するばかりでなく、家中の者、下宿人仲間まで揃ってこの毛色の変った下宿人を愛さなかった。みんな「結構さん」をかげでは嗤った。贋金つくり、魔法師、背信者だのと云って噂している。 ゴーリキイはだんだんこの「結・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・と言い、おばあさんが警戒するばかりでなく、家中の者が揃ってこの毛色の変った下宿人を愛さなかった。みんな「結構さん」をかげでは嗤って、贋金つくりだの、魔法師だの、背信者だのと噂している。荷馬車屋、韃靼人の従卒、軍人とジャム壺をもって歩いて・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・己達はいつも二人並んで歩いたり泳いだりして居たっけが人様よりも美くしい毛色をもった己はいつも仲間からうらやまれて居た。泳ぎ出しの姿がいいとほめたのもあの娘だったし、好い事があるときっと自分をよんだのもあの娘だった。別れてからこんなに時が立っ・・・ 宮本百合子 「芽生」
一、今日の地位に至れる径路 政略と云うようなものがあるかどうだか知らない。漱石君が今の地位は、彼の地位としては、低きに過ぎても高きに過ぎないことは明白である。然れば今の地位に漱石君がすわるには、何の政策を弄する・・・ 森鴎外 「夏目漱石論」
出典:青空文庫