・・・浜子は近ごろ父との夫婦仲が思わしくないためかだんだん険の出てきた声で、――何や、けったいな子やなア。ほな、十吉はうちで留守番してなはれ。昼間、私が新次を表へ連れだして遊んでいると、近所の人々には、私がむりやり子守をさせられているとしか見えな・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・「あんた私が好きやろ」 しかし、「嫌いやったら、いっしょに歩けしまへん」 と、期待せぬ巧妙な返事にしてやられた。「けったいな言い方やねんなあ。嫌いやのん、それとも好きやの。どっちやの」 好きでもないのに好いてると思わ・・・ 織田作之助 「雨」
・・・しがないが、とにかくその蜜豆は一風変っていて氷のかいたのをのせ、その上から車の心棒の油みたいな色をした、しかし割に甘さのしつこくない蜜をかぶせて仲々味が良いので、しばしば出掛け、なんやあの人男だてらにけったいな人やわという娘たちの視線を、随・・・ 織田作之助 「大阪発見」
・・・ というと、お内儀さんはうれしそうに、「千日堂の信用もおますさかいな、けったいなことも出来しめへん。――まアこの建物見とくなはれ。千日前で屋根瓦のあるバラックはうちだけだっせ。去年の八月から掛って、やっと暮の三十一日に出来ましてん。・・・ 織田作之助 「神経」
・・・この時脈は百三十を越して、時々結滞あり、呼吸は四十でした。すると、病人は直ぐ「看護婦さん、そりゃ間違っているでしょう。お母さん脈」といって手を差出しました。私はその手を握りながら「ああ脈は百十だね、呼吸は三十二」と訂正しました。普段から、こ・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・「なあ、へ ×はん」「あんたはん、お見いしまへんのか」「あほくさ!」「けったいな人」「知らん」「おおきに」「そうどすか」「私、知らん」「そらあてかて 知ったるさかい」「知らん、云わはるやないか」「・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
出典:青空文庫