・・・そんなけばけばしいなりをしながら、片手で左わきの膝の上で着物を抓み上げ持ち上った裾と白足袋のくくれの間から一二寸も足を出したまま悠くり歩いて行く。左右を眺めるでもなく歩いて行く。――私は、異常な気持がした。その若い女を見て、何か感情に訴えら・・・ 宮本百合子 「茶色っぽい町」
・・・お召の側らにけばけばしい洋装がいるかと思えば、季節外れの衣裳を平気で身に附けている者がある。だから、京都は統一はあるが婦人の個性は失われている。東京は統一がない代りに、各自その人の個性がはっきり掴み取れる様な服装をしている。土地によると二つ・・・ 宮本百合子 「二つの型」
・・・ 黒毛の猫とあんまりやせた犬とはねらわれて居るようで、かべのくずれたのはいもりを、毛深い人は雲助を思い、まのぬけて大きい人を見ると東山の馬鹿むこを、そぐわないけばけばしいなりの人を見ると浅草の活動のかんばんを思い出す。 用い・・・ 宮本百合子 「芽生」
・・・余りけばけばしい装飾の遠慮、無力を一種の愛らしさとしていた怯懦の消滅、自分の手と頭脳にだけ頼って、刻々変化する四囲の事情の中に生活を纏め計画する必要に迫られたことは、其時ぎりで失せる才覚以上のものを与えた。 種々の点から、今東京に居遺る・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
出典:青空文庫