・・・なぜなら現代のアジアは何かの権勢によって単に処理されるべきところとして存在しているのではないのだから。 ジョン・ハーシーが、天津に育っている外国人の少年として子供時代から周囲の生活を観察し、それを、あるままに理解しようとして来た心の習慣・・・ 宮本百合子 「「ヒロシマ」と「アダノの鐘」について」
・・・その時、まして茂索氏やふさ夫人のような気質の人たちであったら、大したものでもない題材へ、夫婦が両側からとびつく姿をめいめいの心の中に描いただけでもうんざりするというところがあり、具体的には計らず互に牽制する結果となって才能をいつか凋ませ、み・・・ 宮本百合子 「夫婦が作家である場合」
・・・出来るだけ金持の男へ、出来るだけ権勢ある貴族へ好い条件で娘を嫁にやれるように、という範囲でなら、何も特色の一つだ。哲学ずきさえも、もし美しく化粧することを忘れない程度ならサロンの風変りな花形として黙認した。つまり、あらゆる婦人のための学問教・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・すなわちLという頭字をもった三人の人たちは個人的な権勢の欲望に害されることのなかった無私な人たちだった。革命的指導者の最大の徳義は、世界とその国の客観的情勢を自分がそれを好都合と感じるか、感じないかということにかかわらず、革命の課題にそって・・・ 宮本百合子 「三つの愛のしるし」
・・・ 私たちにこれだけの思いを抱かせるのも、つまりは帝と中宮の絆が、軽薄な当時の常識から溢れ出ているからではないだろうか。権勢につき、それに媚びて情愛を移らせることが怪しまれなかったその頃の殿上の気風のままに、帝の情が浅いものであったなら、・・・ 宮本百合子 「山の彼方は」
・・・しかもそれが、罪人の間に往々見受けるような、温順を装って権勢に媚びる態度ではない。 庄兵衛は不思議に思った。そして舟に乗ってからも、単に役目の表で見張っているばかりでなく、絶えず喜助の挙動に、細かい注意をしていた。 その日は暮れ方か・・・ 森鴎外 「高瀬舟」
・・・ そうして、彼は伊太利を征服し、西班牙を牽制し、エジプトへ突入し、オーストリアとデンマルクとスエーデンを侵略してフランスの皇帝の位についた。 この間、彼のこの異常な果断のために戦死したフランスの壮丁は、百七十万人を数えられた。国内に・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫