・・・ 大人が多勢ガヤガヤしていて傍へもよりつけないので、私は、父が肩へかけて呉れた茶皮のケース入りの写真機を枕にして横浜からの汽車の中で眠ってしまった。それはコダックの手札形であった。 弟が十八九の頃、写真にこった。家族のものや静物をそ・・・ 宮本百合子 「カメラの焦点」
・・・ 大人が多勢ガヤガヤしていて傍へもよりつけないので、私は、父が肩へかけて呉れた茶皮のケース入りの写真機を枕にして横浜からの汽車の中で眠ってしまった。それはコダックの手札形であった。 弟が十八九の頃、写真にこった。家族のものや静物をそ・・・ 宮本百合子 「カメラの焦点」
・・・のぼらなければ林町の通りへ来られなかった。 藍染川と団子坂との間の右側に、「菊見せんべい」の大きな店があった。ひろい板じきの店さきに、ガラスのついた「せんべい」のケースがずらりと並んでいた。ケースの上に菊の花を刷って、菊見せんべいと、べ・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・のぼらなければ林町の通りへ来られなかった。 藍染川と団子坂との間の右側に、「菊見せんべい」の大きな店があった。ひろい板じきの店さきに、ガラスのついた「せんべい」のケースがずらりと並んでいた。ケースの上に菊の花を刷って、菊見せんべいと、べ・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・これも、実に多いケースの物語であろうと思う。病者の孤独、そこにこもって孤独に耐えようとすることから主我的になってゆく心。孤独は「宿命」であるとして観念的になってゆく存在が、一つの転機をもって、孤独なもの同士のクラブをつくって人間らしさをとり・・・ 宮本百合子 「『健康会議』創作選評」
・・・これも、実に多いケースの物語であろうと思う。病者の孤独、そこにこもって孤独に耐えようとすることから主我的になってゆく心。孤独は「宿命」であるとして観念的になってゆく存在が、一つの転機をもって、孤独なもの同士のクラブをつくって人間らしさをとり・・・ 宮本百合子 「『健康会議』創作選評」
・・・ ポケットから赤い小さいケースに入った仁丹を出して噛みながら云った。「ブルジョア法律は、認定で送れるんだからね、謂わば君が承認するしないは問題じゃないんだ」「そう云うのなら仕方がない」 自分は云うのであった。「事実がない・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ ポケットから赤い小さいケースに入った仁丹を出して噛みながら云った。「ブルジョア法律は、認定で送れるんだからね、謂わば君が承認するしないは問題じゃないんだ」「そう云うのなら仕方がない」 自分は云うのであった。「事実がない・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ 東京駅でスーツ・ケースをうけとってくれたひとが、先ず訊いたのは、あっちでは野菜はどうだった? ということであった。日本葱一本を等分にわけて、お宅には特別にこっちをあげましょうと白い根の方を貰って来たという話もその朝省線の中できいた。・・・ 宮本百合子 「主婦意識の転換」
・・・ 東京駅でスーツ・ケースをうけとってくれたひとが、先ず訊いたのは、あっちでは野菜はどうだった? ということであった。日本葱一本を等分にわけて、お宅には特別にこっちをあげましょうと白い根の方を貰って来たという話もその朝省線の中できいた。・・・ 宮本百合子 「主婦意識の転換」
出典:青空文庫