・・・(にじり出した、宮の端から下界を瞰下一寸下を覗かせろ。愚鈍な人間共が、何も知らずに泰平がっている有様を、もう一息の寿命だ。見納めに見てやろう。ヴィンダー 俺の大三叉も、そろりそろりと鳴り始めたぞ。この掌に伝わる頼もしい震動はどうだ。ふむ・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・ 高い山から眺める下界の景色は、ほんとに綺麗である。そしてほんとに可愛らしい。 何もかもが小さくちょびんとまとまって、行儀よく、ぶつかりもせず離れすぎもしないように並んでいる。 昔々ずうっと大昔、まだ人間が毛むくじゃらで、猫のよ・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・しかもそれは紙ばりの思想的凧に縛りつけられて下界に向って舌を出しながらふらついているオモチャの幽鬼である。 ダンテの神曲が、後代の卑俗な研究家によって地獄、煉獄、天国の地図をつくられているのにならって、小樽市の現実的な地図などを小説の間・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・魂の饑餓と欲求とは聖い光を下界に取りおろさないではやまない。人生の偉大と豊饒とは畢竟心貧しき者の上に恵まれるでしょう。悩める者、貧しき者は福なるかな。私は自分の貧しさに嘆く人々が一日も早く精神の王国の内に、偉大なる英雄たちの築いたあの王国の・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
・・・しかも彼には星とともに下界を輝らす信念がある。「身に近き義務と信ぜらるるものをまずなし果たせ。第二義務は直ちに明らかならん。霊的解脱はここにあり。かくてすべての人が漠然として欲求し、茫然として不可達に苦しむ理想の境はたちまちにして汝の前に開・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫