・・・私達は、かゝる芸術の存在理由をも、効果をも疑うものでないが、芸術は、創造であり、個的でなければならぬところに理由を置く。芸術は、感激であり、魂であるからである。 社会運動に、芸術運動に、苟くも、人間を対象とするかぎり、闘争を意味し、感激・・・ 小川未明 「純情主義を想う」
・・・ 紳士は、高価な金を払って、しんぱくを車の中へ持ち込みました。このとき、しんぱくは、命を賭けて取り、育ててくれたほどの人が、金銭で売ってしまった、その愛について疑わずにはいられなかったのでした。しかし、これが人間社会の掟でもあろうかと思・・・ 小川未明 「しんぱくの話」
・・・そして、この教化は、小さき者達に、果して将来幾何の効果をもたらしたでありましょうか。 私が、もし、童話を子供達に向って語るとせば、この態度、この心をもってします。そして、書く場合に於ても、何等、それと異なるところがないでありましょう。・・・ 小川未明 「童話を書く時の心」
・・・必ずしも、それは、高価な楽器たるを要しない。また、それを弾ずる人の名手たるを要しない。無心に子供の吹く笛のごときであってもいゝ。また、林に鳴る北風の唄でもいゝ。小鳥の啼声でもいゝ。時に、私達は、恍惚として、それに聞きとられることがある。そし・・・ 小川未明 「名もなき草」
・・・こんなに高価なものをお礼にする必要はないのだ。どうせ、今度きた時分に、なにか持ってきてやれば、それで義理がすむのだ。」と、宝石商は考えなおしました。そして、その石をみんなもとのとおり包んで隠してしまいました。 おばあさんや、娘は、宝石商・・・ 小川未明 「宝石商」
・・・唄ってくれと言われて、紅燃ゆる丘の花と校歌をうたったのだが、ふと母親のことを頭に泛べると涙がこぼれた。学資の工面に追われていた母親のことが今はじめて胸をちくちく刺した。その泪だった。そんな豹一を見て、女は、センチメンタルなのね。肩に手を掛け・・・ 織田作之助 「雨」
・・・はいつもの饒舌癖がかえって大阪の有閑マダムがややこしく入り組んだ男女関係のいきさつを判らせようとして、こまごまだらだらと喋っているという効果を出しているし、大阪弁も女専の国文科を卒業した生粋の大阪の娘を二人まで助手に雇って、書いたものだけに・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・この支店長募集をすべてお前の頭からひねり出したように書いているが、また、そうして置く方が、お前の真相をあばく効果を強めることにもなるわけだろうが、むろんここへはおれの名を書きそえるところだった。いや、もっと正確を期するなら、一切合財おれが下・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・どうせ、中身はたいして変らぬのだが、特製といえば、なにか治りがはやいように思って、べらぼうに高価いのに、いや、高価いだけに、一層売れた。知らぬ間に、お前は巨万の金をこしらえていたのだ。 七 おれの目的、同時にお前・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・死ぬときまった人間ならもうモルヒネ中毒の惧れもないはずだのに、あまり打たぬようにと注意するところを見れば、万に一つ治る奇蹟があるのだろうかと、寺田は希望を捨てず、日頃けちくさい男だのに新聞広告で見た高価な短波治療機を取り寄せたり、枇杷の葉療・・・ 織田作之助 「競馬」
出典:青空文庫