・・・聴く所によると、彼はシナリオ料や脚本料など相当な高額を要求し、払いがおくれると矢のような催促をするそうである。おまけにそんな仕事の使いに来る人にも平気でおごらせたりしているらしい。だから、人々は辻は汚ない、けちけちと溜めている、もう十万円も・・・ 織田作之助 「鬼」
・・・ 「だって、あっしにも分らねえおかしなもんだからちょっと後学のために。」 「ハハハ、後学のためには宜かったナ、ハハハ。」 吉は客にかまわず、舟をそっちへ持って行くと、丁度途端にその細長いものが勢よく大きく出て、吉の真向を打たんば・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・一点にごらぬ清らかの生活を営み、友にも厚き好学の青年、創作に於いては秀抜の技量を有し、その日その日の暮しに困らぬほどの財産さえあったのに、サラリイマンを尊び、あこがれ、ついには恐れて、おのが知れる限りのサラリイマンに、阿諛、追従、見るにしの・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・月末になると、近所の蕎麦屋、寿司屋、小料理屋などから、かなり高額の勘定書がとどけられた。一家の空気は険悪になるばかりであった。このままでこの家庭が、平静に帰するわけはなかった。何か事件が、起らざるを得なくなっていた。 真夏に、東京郊外の・・・ 太宰治 「花火」
・・・時々、朝ここで、おみおつけのごちそうになる事があるからな。後学のために、おたずねする。」「全部ですよ。そんなにお疑いなら、もう、うちではお客さまに、おみおつけは、お出し致しません。」「そう願いたいね。トシちゃんは?」「井戸端で足・・・ 太宰治 「眉山」
・・・わずかに十六歳の少年は既にこの時分から「運動体の光学」に眼を付け初めていたという事である。後年世界を驚かした仕事はもうこの時から双葉を出し初めていたのである。 彼の公人としての生涯の望みは教員になる事であった。それでチューリヒのポリテキ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・ ニュートンの光学が波動説の普及を妨げたとか、ラプラスの権威が熱の機械論の発達に邪魔になったとかという事はよく耳にする事である。ある意味では確かにそうかもしれない。しかしこの全責任を負わされてはこれらの大家たちはおそらく泉下に瞑する事が・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・ 映画の光学的映像より成る一つ一つのショットに代わるものが、連句では実感的心像で構成された長句あるいは短句である。そうしてこれらの構成要素はそのモンタージュのリズムによってあるいは急にあるいはゆるやかなる波動を描いて行く、すなわち音楽的・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・この目立った差別には、写真レンズやフィルムの光学的化学的な技術の差から来るものもないとは言われないが、しかしなんといっても国民性の相違から来る根本的なものがすべてを支配し決定しているとしか思われない。このアメリカ映画の話の筋は決してそう明る・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・今考えてみると光学上の初歩の知識さえ皆無であり、それに使ったレンズがきわめて粗悪なものであるのみならず、焦点距離が長いのに、原画をあまり近く置きすぎたために鮮明な映像を得られなかったのは当然である。それでもこの失敗した試みが自分の理学的知識・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
出典:青空文庫