・・・そのうちにトーキーが始まるというので後学のために出かける。そうしているうちにいつのまにか一通りの新米ファンになりおおせたようである。 いちばんおもしろいものは実写ものである。こしらえたものにはやはりどこかに充実しない物足りなさがありごま・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
昭和七年四月九日工学博士末広恭二君の死によって我国の学界は容易に補給し難い大きな損失を受けた。 末広君の家は旧宇和島藩の士族で、父の名は重恭、鉄腸と号し、明治初年の志士であり政客であり同時に文筆をもって世に知られた人で・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・また器械の廻転軸の捻れを直接光学的に読み取るトーションメーターの考案も最も巧妙なものとして帝国学士院から授賞されたものである。また鉄筋コンクリートで船を造る場合に主応力の方向に鉄筋を入れるという最も合理的な施工法に関する特許を得ている。地震・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・ たとえばある工学者がある構造物を設計したのがその設計に若干の欠陥があってそれが倒壊し、そのために人がおおぜい死傷したとする。そうした場合に、その設計者が引責辞職してしまうかないし切腹して死んでしまえば、それで責めをふさいだというのはど・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・眼前の物体の光学的影像がちゃんと網膜に映じていてもその物の存在を認めないことはある。これはだれでも普通に経験することである。たとえば机の上にある紙切りが見えないであたり近所を捜し回ることがある。手に持っている品物をないないと言って騒ぐのは、・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・ とんぼがいかにして風の方向を知覚し、いかにしてそれに対して一定の姿勢をとるかということがまた単に生物学者生理学者のみならず、物理学者工学者にまでもいろいろの問題を提供するであろうと思われた。 人間をとんぼに比較するのはあまりに無分・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・生理光学でよく研究されている残像という現象はあるが、それは通例実物を見つめた後きわめて少時間だけにとどまるし、また通例陽像と陰像とが交互に起こるものである。このように長時間の後に残存してしかも陽像のみ現われるというのはまだ読んだ事も聞いた事・・・ 寺田寅彦 「自画像」
・・・の問題として理論的にもかなりたびたび取り扱われたもので、工学上にもいろいろの応用のあるのはもちろんであるが、また一方では、平行山脈の生成の説明に適用されたり、また毛色の変わった例としては、生物の細胞組織が最初の空洞球状の原形からだんだんと皺・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・これはこれらの物質がその周囲の空気と光学的密度を異にしているためにその境界面で光線を反射し屈折するからであって、たとえその物質中を通過する間に光のエネルギーが少しも吸収されず、すなわち完全に「透明」であっても立派に明白に顕著に「見える」こと・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・あらかじめ気象学者の意見を徴すればよいのに、工学者や軍人だけで土地を選定しいよいよ工事を始めてみると気象方面の不都合な点が出て来て中止する事となり、約五百万円くらいの金を棒に振ったという事である。『ネチュアー』の記者はこれについて大いに当局・・・ 寺田寅彦 「戦争と気象学」
出典:青空文庫