・・・その法律の規定している罪人の数が驚くべき勢いをもって増してきた結果、ついにみすみすその国法の適用を一部において中止せねばならなくなっている事実(微罪不検挙の事実、東京並びに各都市における無数の売淫婦が拘禁は何を語るか。 かくのごとき時代・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・直ぐに後金の二円を持って来るから受取っておいてくれい。熊手は預けて行くぞ、誰も他のものに売らんようになあ、と云われましたが、諸君。 手附を受取って物品を預っておくんじゃからあ、」と俯向いて、唾を吐いて、「じゃから諸君、誰にしても・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・金公が悪い。金公金公、金公どうしたっていうもんだから、金公もきまり悪く元の所へ戻ってくると、その始末で、いやはよっぽどの見もんであったとよ」「そりゃおかしかったなア」 皆一斉に笑う。「それからまだおかしい事があるさ。金公もそのま・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・然し現在の母が子の抽斗から盗み出したので、仮令公金であれ、子の情として訴たえる理由にはどうしてもゆかない。訴たえることは出来ず、母からは取返えすことも出来ないなら、窃かに自分で弁償するより外の手段はない。八千円ばかりの金高から百円を帳面で胡・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・第二章 運命第三章 道徳―罪悪第四章 半生の回顧第五章 獄中の回顧 第一章 死生 一 わたくしは、死刑に処せらるべく、いま東京監獄の一室に拘禁されている。 ああ、死刑! 世に・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
一 私は死刑に処せらるべく、今東京監獄の一室に拘禁せられて居る。 嗚呼死刑! 世に在る人々に取っては、是れ程忌わしく恐ろしい言葉はあるまい、いくら新聞では見、物の本では読んで居ても、まさかに自分が此忌わ・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・もっともアフリカ内地へでも行けば、今でも、うっかり国境へ入り込んで視察でもしていたというだけでもすぐ拘禁され、場合によると命があぶない所もあるかもしれない。 これらの事実の関係ははなはだ錯綜していて、考えても考えても、考えが隠れん坊をし・・・ 寺田寅彦 「LIBER STUDIORUM」
・・・宮本は巣鴨拘置所で拘禁生活の六年目、わたしは執筆を禁止されていた年に。父母と、こういう状況の下に死別した人々は、その頃の日本にわたしたちばかりではなかった。拘禁生活をさせられていた人々ばかりでなく、どっさりの人は戦地におくられて、通信の自由・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第五巻)」
・・・一九三二年から四〇年いっぱいといえば八年の年月だが、その間には一九三八年から翌年の初夏までつづいた作品の発表禁止の期間がはさまり、通算六百日ばかりの拘禁生活の期間がある。ここに集められている評論、伝記は主として一九三七年一九三九、四〇年にか・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十五巻)」
・・・あとの九年という歳月は、拘禁生活か、あるいは十三年度の一年半、十六年一月から治安維持法撤廃までの執筆禁止の長い期間にあたっている。 公衆の面前で、一定の人間を、これでもか、これでもか、というふうにあつかったことは、直接そういう目にあうも・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
出典:青空文庫