・・・生理光学でよく研究されている残像という現象はあるが、それは通例実物を見つめた後きわめて少時間だけにとどまるし、また通例陽像と陰像とが交互に起こるものである。このように長時間の後に残存してしかも陽像のみ現われるというのはまだ読んだ事も聞いた事・・・ 寺田寅彦 「自画像」
・・・吹くのと吸うのを交互に繰り返すと、ポペン/\/\というふうな音を出す。吹き方吸い方が少し強すぎるとすぐに底が割れてしまう。いわゆるその「呼吸」がちょっとむつかしい。これを売っている露店商は特製特大の赤ん坊の頭ぐらいのを空に向けてジャンボンジ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 以上は新春の屠蘇機嫌からいささか脱線したような気味ではあるが、昨年中頻発した天災を想うにつけても、改まる年の初めの今日の日に向後百年の将来のため災害防禦に関する一学究の痴人の夢のような無理な望みを腹一杯に述べてみるのも無用ではないであ・・・ 寺田寅彦 「新春偶語」
・・・ 二 大掃除の午後の路地の交互点、こわれたおもちゃに葱大根の尻尾、空瓶空ボールの交響楽、マルクス、ムッソリニの赤ん坊の夢を買わないか。汚いものは美しく、美しいものはきたなく。のっぺりの中へ少しこまこまと金銀紫・・・ 寺田寅彦 「二科狂想行進曲」
・・・それがいつとはなしに自然淘汰のふるいにでもかけられたかのようにいろいろな異分子が取り除かれて五と七という字数の交互的連続に移って行っている。こういう現象は決して権勢の力や金銭の力で招致することのできないものであって、やはり進化論的の意味での・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・おもしろいので試みにアー、イー、ウー、エー、オーと五つの母音を交互に出してみると、ア、オなどは強く反響するのにイやエは弱く短くしか反響しない。これはたぶんあとの母音は振動数の多い上音に富むため、またそういう上音はその波長の短いために・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・そして自分が裸になるのを見てそこに脱ぎすてた着物の上にあがって前足を交互にあげて足踏みをする、のみならず、その爪で着物を引っかきまたもむような挙動をする。そして裸体の主人を一心に見つめながら咽喉をゴロゴロ鳴らし、短いしっぽを立てて振動させる・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・にこれらの各表象が頭に響くので、結局三つか四つの弦を同時に鳴らせた一つの和弦を聞くか、あるいは和弦を分解して交互に響かせるアルペジオを聞く場合と類似の過程である。つまり一つの句をたとえばピアノの譜で縦に重畳した若干の重音の串刺しに相当させる・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・時々に押され刻々に押されて今日に至ったばかりでなく向後何年の間か、またはおそらく永久に今日のごとく押されて行かなければ日本が日本として存在できないのだから外発的というよりほかに仕方がない。その理由は無論明白な話で、前詳しく申上げた開化の定義・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・のごときも拝見しておらん。向後花袋君及びその他の諸君の高説に対して、一々御答弁を致す機会を逸するかも知れない。その時漱石は花袋君及びその他の諸君の高説に御答弁ができかねるほど感服したなと誤解する疎忽ものがあると困る。ついでをもって、必ずしも・・・ 夏目漱石 「田山花袋君に答う」
出典:青空文庫