・・・十人ぐらいでやる時は一番愉快だよ。甲州ではじめた時なんかね。はじめ僕が八ヶ岳の麓の野原でやすんでたろう。曇った日でねえ、すると向うの低い野原だけ不思議に一日、日が照ってね、ちらちらかげろうが上っていたんだ。それでも僕はまあやすんでいた。そし・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・わたくしもみんなのあとから役所を出て、いままでの通り公衆食堂で食事をして競馬場へ帰って来ました。するとやっぱりよほど疲れていたと見えて、ちょっと椅子へかけたと思ったら、いつかもうとろとろ睡ってしまっていました。その甘ったるい夕方の夢のなかで・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・染物講習会が開催されているのであった。時節柄だなアという感想を沁々と面に浮べていろんなひとたちが見て通った。すると、その横の入口へ一台自動車がすーと止って、なかから一人のお爺さんが背中をかがめてでて来た。その自動車のフロント硝子には「自」と・・・ 宮本百合子 「新しい美をつくる心」
・・・魯迅は「そこの家の虐遇に堪えかねて間もなく作人をそこに残して自分だけ杭州の生家へ帰った」そして、病父のためにえらい辛酸を経験した。 作人はその間に、魯迅と一緒にあずけられた家から祖父の妾の家へ移って、勉学のかたわら獄舎の祖父の面会に行っ・・・ 宮本百合子 「兄と弟」
・・・ 公衆の面前で、一定の人間を、これでもか、これでもか、というふうにあつかったことは、直接そういう目にあうものを極度に苦しめたばかりでなく、ある距離をもってそのぐるりをかこみ、その光景を目撃している、より多数の、より不安定な条件におかれて・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
十月下旬行われた作家同盟主催の文学講習会のある夜、席上でたまたま「亀のチャーリー」が討論の中心となった。ある講習会員が「亀のチャーリー」をとりあげ、その作品は一般読者の間で評判がよく親しみをもって読まれたから、ああいう肩の・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・では、その希望を実現するために、事務技術の向上、または専門関係の知識を深めるために、講習をうけるとして、さて、時間の関係はどうだろう。勤労婦人が、家庭の女の用事と二重に働らかなければならない困難はあらゆる人が経験している。夜は不用心で、こわ・・・ 宮本百合子 「いのちの使われかた」
・・・ 民主的な国で「公衆」というとき、それは個々の「私」が幾千幾万と、より集った、最も実力のある、決定権をもったものとして、見られています。ところが日本ではどうでしょうか。「公衆食堂」へ農林大臣が食事に行ったという例があったでしょうか。・・・ 宮本百合子 「公のことと私のこと」
・・・ 分りにくい建物の細い横のようなところから廊下をとおって、先ず公衆待合室というところへ行きました。外見は立派な役所に似ず薄暗いきたないところに床几が並んでいます。そこにもう二十人近い男女のひとが来ていましたが、初めてこういうところへ来て・・・ 宮本百合子 「共産党公判を傍聴して」
・・・日本の議会に圧倒的多数を占めて政権をもった政党が、全くその名を穢辱し、投票者たちを侮辱して公衆の目前にさらした数々のみにくさを考えながら。 吉田首相は、新内閣を組織し、議会を再開した。しかし一般施政方針について演説しない。そのことで・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
出典:青空文庫