・・・そこの小家はいずれも惚れ惚れするような編み細工や彫刻で構成せられた芸術品であった。男は象眼のある刃や蛇皮を巻いたの鉄の武器、銅の武器を持たぬはなかった。びろうどや絹のような布は至る処で見受けられた。杯、笛、匙などは、どこで見ても、ヨーロッパ・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
・・・椎の樹は武蔵野の原始林を構成していたといわれるが、しかし五月ごろの東山に黄金色に輝いている椎の新芽の豪奢な感じを知っているものは、これこそ椎だと思わずにはいられない。 が、湿気と結びついて土壌が重要な役目をしていることも見のがすわけには・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
・・・先生の人格が昇って行く道はここにあった。公正の情熱によって「私」を去ろうとする努力の傍には、超脱の要求によって「天」に即こうとする熱望があるのであった。七 先生の諧謔はこの超脱の要求と結びつけて考えねばならぬ。もともと先生の・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
・・・網目版の校正にそれほど念を入れていたのである。それだけに出来ばえはすばらしくよいように思われる。ここに集められた能面は実物を自由に見ることのできないものであるが、写真版として我々の前に置かれて見ると、我々はともどもにその美しさや様式について・・・ 和辻哲郎 「能面の様式」
出典:青空文庫