・・・しかしてエネルギーは太陽の光線にもあります。海の波濤にもあります。吹く風にもあります。噴火する火山にもあります。もしこれを利用するを得ますればこれらはみなことごとく富源であります。かならずしも英国のごとく世界の陸面六分の一の持ち主となるの必・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・また一つの窓からは、うすい桃色の光線がもれて、路に落ちて敷石の上を彩っていました。よい音色は、この家の中から聞こえてきたのであります。 さよ子は、家の中がにぎやかで、春のような気持ちがしましたから、どんなようすであろうと思って、その窓の・・・ 小川未明 「青い時計台」
・・・そして、しばらく雪の上にすわって闇を見つめて後先のことを考えました。 そのとき、彼は、かすかに、前方にあたって、ちらちらと燈火のひらめくのをながめたのであります。いままで、がっかりとして人心地のなかった彼は勇んで飛びあがりました。ああ、・・・ 小川未明 「宝石商」
・・・その温泉は鉱泉を温める仕掛けになっているのだが、たぶん風呂番が火をいれるのをうっかりしているのか、それとも誰かが水をうめすぎたのであろう。けれど、気の弱い私は宿の者にその旨申し出ることもできず、辛抱して、なるべく温味の多そうな隅の方にちぢこ・・・ 織田作之助 「秋深き」
・・・いくら口銭を取るのか知らないが、わざと夜を選んでやって来たのも、小心な俄か闇屋らしかった。「千箱だと一万円ですね」「今買うて置かれたら、来年また上りますから結局の所……」「しかし僕は一万円も持っていませんよ」 当にしていた印・・・ 織田作之助 「世相」
・・・その隣りは竹林寺で、門の前の向って右側では鉄冷鉱泉を売っており、左側、つまり共同便所に近い方では餅を焼いて売っていた。醤油をたっぷりつけて狐色にこんがり焼けてふくれているところなぞ、いかにもうまそうだったが、買う気は起らなかった。餅屋の主婦・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・ 廊下の灯りも消えているので、外から射し込んで来る光線もなく、途端に真暗闇になった。 手さぐりでもとの椅子に戻ると、小沢は濡れた服を寝巻に着更えると、眼を閉じた……。 外は相変らずの土砂降りだった。 何か焦躁の音のような、そ・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・そのプツプツした空気、野獣のような匂い、大気へというよりも海へ射し込んで来るような明らかな光線――ああ今僕はとうてい落ちついてそれらのことを語ることができない。何故といって、そのヴィジョンはいつも僕を悩ましながら、ごく稀なまったく思いもつか・・・ 梶井基次郎 「海 断片」
・・・ただこれぎりなら夏らしくもないが、さて一種の濁った色の霞のようなものが、雲と雲との間をかき乱して、すべての空の模様を動揺、参差、任放、錯雑のありさまとなし、雲を劈く光線と雲より放つ陰翳とが彼方此方に交叉して、不羈奔逸の気がいずこともなく空中・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・廊下へはどこからも光線が這入らなかった。薄暗くて湿気があった。地下室のようだ。彼は、そこを、上等兵につれられて、垢に汚れた手すりを伝って階段を登った。一週間ばかりたった後のことだ。二階へ上るとようよう地下室から一階へ上った来たような気がした・・・ 黒島伝治 「穴」
出典:青空文庫