・・・ 私は二三日来、注射をやめて飲み薬だけになりましたが、心のどかで好調です。何しろ静脈注射ですから気がはるのよ、痛い時はひどいから。 知らなかったけれどB・Cの外に砒素の薬が入っていたらしくて、それは心臓の為や体の再建の為に役立ったの・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 一九四六年に組織された現在の放送委員会は日本のラジオの民主化にたいして負わされた責任において、慎重に政府案を検討した。公聴会も開いた。そして政府の放送事業法案にたいして、より具体的にラジオ民主化の可能性をもった放送委員会法要綱を作成し・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・八月八日に「はじめて面会を許されて弟に会いましたが、そのとき立ち会った木村検事にわたしが、公正な立場でやっていただきたいというと『宮原係の検事としてききずてならない』と酒を飲んだように顔面を紅潮させて、両脇腹に手をあてがって『でっちあげるの・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・それは、どうしてプロレタリア文学運動の中では、一例をあげれば職場でのストライキが高潮に達した時にあぶなっかしい幹部として監視をつけられたというような話のある人や、左翼の政治的活動から自発的に後退の形をとってきたような人が、組合にいたとか、組・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
・・・日露戦争がしだいに高潮して来ていたのである。疏水の両側の角刈にされた枳殻の厚い垣には、黄色な実が成ってその実をもぎ取る手に棘が刺さった。枳殻のまばらな裾から帆をあげた舟の出入する運河の河口が見えたりした。そしてその方向から朝日が昇って来ては・・・ 横光利一 「洋灯」
・・・閹人たちは踊りが高潮に達した時に小刀をもって腕や腿を傷つける。そうして血みどろになって猛烈に踊り続ける。それを見まもる者はその血の歓びを神の恩寵として感じている。その彼らはまた処女の神聖を神にささげると称して神殿を婚姻の床に代用する。性欲の・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
・・・ 私は偶像礼拝者の歓喜をさらに高調に達せしめる要素として、読経および儀式の内に含まれている音楽的および劇的影響をあげなければならぬ。 我々の祖先は今、適度の暗さを持った荘厳な殿堂の前に、神聖な偶像の美に打たれて頭を垂れている。や・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
・・・要するに吾人は肉体を超越して宇宙の悲哀に恍惚たる心霊が雄壮に触れ真を憧憬し義に熱し愛に酔いて無我の境に入る時高潮に達する。Im Schnen, Im Guten, Im Ganzen resolbt zu leben の境地、神にあくがれて・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫