・・・夏目漱石は周囲に多くの後輩の出入があった。勿論作品の発表のために尽力している。けれどもその時代のことと今日の右の事情とは、二十年の歳月が日本と私たちとを変えているように、質を変えているのである。 これらの曲折の間に、プロレタリア文学はど・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・現代文学の素質は戦後になってから戦時中の荒廃をとりもどすどころか、実名小説にまで低下して来た。一九三三年に石坂洋次郎が、左翼への戯画としてかいた「麦死なず」と、一九五〇年に三好十郎が書いた「ストリップ・ショウ・殺意」とを見くらべれば、現代文・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・文壇ギルドへの立ちがえりであり、先輩、後輩間の封建的な格づけに従属することであるのにおどろかされるであろうと思う。 三 現代文学は創作方法において、益々行きづまって来ていて、文壇とジャーナリズムの文学意識で・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・潜在意識の世界に文学をうちたてようとしたプルーストたちのイギリスでの後輩ヴァージニア・ウルフの生と死とは、私たちに、現代ソヴェト文学の道とプルーストの道がどこかでつながっているものとして理解しがたかった。「スクタレフスキー教授」の作者の心理・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・私はこのことをもう一度後段でとりあげたいと思うが、荷風が往年特徴としたデカダンスの張りあいない腰をおとした作家的態度を見すごすことは、何か後輩の大人らしさという風にポーズされ、この「ひかげの花」は「春琴抄」とならんで、一般文学愛好家の間にま・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・帝国主義、ファシズムによって荒廃させられた東ヨーロッパの人民も民族の自立と人民生活の確立を方針として、人民民主主義の社会をつくりました。そして、一九五〇年は世界最大の人口をもつ中国が、中華人民共和国として発足しているという驚歎すべき事実によ・・・ 宮本百合子 「宋慶齢への手紙」
・・・学者の或る人は、女性の社会感覚がせまいことがかえって幸して、主観のうちにとらえられている主題を外界に煩わされずに――荒々しい社会性に妨げられずに一意専念自分の手に入った技巧でたどってゆくから、この文学荒廃の時期に、婦人作家は思いがけない花を・・・ 宮本百合子 「壺井栄作品集『暦』解説」
・・・しかしヨーロッパや東洋の荒廃した国々の誰がこの上にも戦禍を重ねたいと思っているでしょう。真実に求められているのは平和です。平和を可能にする世界の民主化の確立です。このことは、こんどの大戦後の世界に、民主主義婦人同盟ができて千百万人の婦人を組・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・ 崇福寺は、黄檗宗の由緒ある寺だが、荒廃し、入口の処、白い築地の崩れた間を通って行くようになっている。龍宮造りの山門を潜り石段を登ると、風化作用によって一種趣のついた石欄がある。奥に、朱塗の唐門があり、鍵の手に大雄宝殿――本堂となってい・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・この仕事に組織されたのは関山の中学や小学校の後輩二〇名だそうです。新聞記事は、これらの人びとを同志とかいています。いわゆる五・一五事件当時から山岸敬明と妻君のあや子という人の間には、新聞口調でいえば、灼熱のロマンスがひめられていたそうです。・・・ 宮本百合子 「ファシズムは生きている」
出典:青空文庫