・・・と、勇ちゃんが、がんばると、「ずるいや、お母さん、公平に分配してくださいね。」と、二郎さんが、叫びました。「お母さんは、いつも、公平に分配するじゃありませんか。」 このとき、二郎さんが、メートル尺を持ってきたので、みんなは、笑い・・・ 小川未明 「お母さんはえらいな」
・・・それ等を、公平によって、書くことは不可能なことである。 都市労働者の生活は、これを最もよく知れる者によって書かれなければならない如く、農村の百姓の生活は、同じく体験あるものによって、始めて代弁されるであろう。 私達は、近代、機械によ・・・ 小川未明 「純情主義を想う」
・・・ 又、三人の泥棒が、その縄張り地域の広狭から、それを公平に分配することを問題にして、喧嘩を始めたらどうであるか。如何に正義、人道を表面に出して、自己の行為を弁護しようとも、それは、泥棒自身の利益のために、人を欺くものである。而も、現在、・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・そして、公平に、坑夫でも手子でも空いていさえすれば、一等室に這入らした。その事実を曲げない、公平なだけでも、坑夫達には親のように有難かった。だが、それだけに、この坑山では、直ちに、追い出される理由になった。「糞ッ!」 彼等は、坑内へ・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・そんな工合で互に励み合うので、ナマケル奴は勝手にナマケて居るのでいつまでも上達せぬ代り、勉強するものはズンズン上達して、公平に評すれば畸形的に発達すると云っても宜いが、兎に角に発達して行く速度は中々に早いものであったのです。 併し自修ば・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・なるほどこれは悪意で言ったのではなかったが、己を以て人を律するというもので、自分が遊びでも人も遊びと定まっている理はないのであった。公平を失った情懐を有っていなかった自分は一本打込まれたと是認しない訳には行かなかった。が、この不完全な設備と・・・ 幸田露伴 「蘆声」
・・・出動部隊は近衛師団、第一師団のほか、地方の七こ師団以下合計九こ師団の歩兵聯隊にくわえて、騎兵、重砲兵、鉄道等の各聯隊、飛行隊の外、ほとんど全国の工兵大隊とで、総員五万一千、馬匹一万頭。それが全警備区に配分されて、配給や救護や、道路、橋の修理・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・卒業証書は金色の額縁にいれて母の寝間の壁に飾り、まことにこれ父母に孝、兄弟には友ならず、朋友は相信ぜず、お役所に勤めても、ただもうわが身分の大過無きを期し、ひとを憎まず愛さず、にこりともせず、ひたすら公平、紳士の亀鑑、立派、立派、すこしは威・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・ちょっと考えると、少なくも科学者のほうは、学問の性質上きわめて博愛的で公平なものでありそうなのに事実は必ずしもそうでないのは謎理的のようである。しかしよく考えてみると、科学者芸術家共に他の一面において本来一種の自己主義者たるべき素質を備えて・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・そうするのが実行上最も便宜であり、結果においても比較的公平を期することが出来るであろう。 こんな工合であるから論文の価値は結局少しも絶対的なものでなく、全く相対的に審査員の如何によって定まる性質のものである。尤も中にはほとんど如何なる審・・・ 寺田寅彦 「学位について」
出典:青空文庫