・・・黒白斑らの、仔馬ほどもあるのが、地べたへなげだした二本の前脚に大きな頭をのっつけ、ながい舌をだしたまま眠っている。――「今日は、こんにゃく屋でございます……」 私はそう言いたいのだが、うまく声が出ない。こいつが眼をさましたらどうしよ・・・ 徳永直 「こんにゃく売り」
・・・むかし細川藩の国家老とか何とかいう家柄をじまんにして、高い背に黄麻の単衣をきちんときている。椅子をひきずってきて腰かけながら、まだいっていたが、「なんだ、青井さ、一人か」 と、気がついたふうに、それから廊下をへだてた、まだ夜業をして・・・ 徳永直 「白い道」
・・・ この時向こうから仔馬が六疋走って来てホモイの前にとまりました。その中のいちばん大きなのが、 「ホモイ様。私どもにも何かおいいつけをねがいます」と申しました。ホモイはすっかり悦んで、 「いいとも。お前たちはみんな僕の大佐にする。・・・ 宮沢賢治 「貝の火」
・・・ またある時、須利耶さまは童子をつれて、馬市の中を通られましたら、一疋の仔馬が乳を呑んでおったと申します。黒い粗布を着た馬商人が来て、仔馬を引きはなしもう一疋の仔馬に結びつけ、そして黙ってそれを引いて行こうと致しまする。母親の馬はびっく・・・ 宮沢賢治 「雁の童子」
・・・此の夏休み中で、一番面白かったのは、おじいさんと一緒に上の原へ仔馬を連れに行ったのと、もう一つはどうしても剣舞だ。鶏の黒い尾を飾った頭巾をかぶり、あの昔からの赤い陣羽織を着た。それから硬い板を入れた袴をはき、脚絆や草鞋をきりっとむすんで、種・・・ 宮沢賢治 「種山ヶ原」
・・・着物でも夏であったが、黄麻の無地で、髪や容貌と似合っていた。 その時、別に立ち入った話をした訳ではなかったのに、数日後、私は俥に乗って田端の芥川さんの家を訪ねました。その時分、私は内的に苦しんでいて、その訪問も、愚痴を聞いて欲しいという・・・ 宮本百合子 「田端の坂」
出典:青空文庫