・・・ナチス占領下のフランスで、フランス人民の自由と文化を守ろうとした人々は、反ナチス、ユダヤ人とさえ見れば虐殺したナチス暴圧下のドイツの中でなおひそかに人類の正義と人権のためにたたかっている人々との交流があった。フランス婦人の間に組織された大学・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
・・・従って、文学批評の貧困が云われる時代に、文芸作品が文学の真の発展の意味で興隆しているという現象は、社会的にあったためしがない。プロレタリア文学を歴史の上に顧みて、或る人は今日では殆ど十年を経たあの時代には、作品そのものより批評、評論の活躍が・・・ 宮本百合子 「地の塩文学の塩」
・・・ず流れ出し、忍耐づよく時とともにその流域をひろげ、初めは日常茶飯の話題しかなかったものが、いつしか文化・文学の諸問題から世界情勢についての観測までを互に語り合う健やかな知識と情感との綯い合わされた精神交流となって十二年を成長しつづけて来たと・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
・・・文芸評論が再び興隆したという意味とはちがう形で、その頃文学の領域には議論が盛だと思う。随分議論だらけである。けれども、作家と時代とのいきさつを、本当に大局からみて、歴史の足どりがその爪先を向けている磁力の方向と、その関連に於て作家一人一人が・・・ 宮本百合子 「遠い願い」
・・・今日改正されたような民法は明治三十年の初め、日本が未だ資本主義興隆期に向っていた時代に、ブルジョア民法として福沢諭吉が強く主張していた折に改正されれば、いくらかは社会生活の現実で女性の実際の助力となり得たろう。きょうではあまりおそまきな、結・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・私は十二月九日理由不明で駒込署に留められ、〔翌年〕三月検事拘留のまま巣鴨拘置所に送られた。六月下旬警視庁の調べがはじまった。何でもかでも共産主義の宣伝のためにしたという結論におちつけようとする調べであった。六月下旬に検事が来たとき私の調べの・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・民主日本に発足しながら、今日まで日本と外国との文化交流は、むずかしい翻訳権問題で行き悩んでいる。外国の書籍を、せりでおとして翻訳を許可されるというような世界に珍しい現象さえ行われている。 こういう不便でかつおたがいにきまりのよくない文化・・・ 宮本百合子 「はしがき(『文芸評論集』)」
・・・町人に生まれ、折から興隆期にある町人文化の代表者として、西鶴は談林派の自在性、その芸術感想の日常性を懐疑なく駆使して、当時の世相万端、投機、分散、夜逃げ、金銭ずくの縁組みから月ぎめの妾の境遇に到るまでを、写実的な俳諧で風俗描写している。住吉・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・ 昔、文学の領域でアナーキズムとマルクシズムとの論争が旺んであった時代は、プロレタリア文学史のことで最も紛糾した頁をなしているのであろうと思うが、それは性質において今日プロレタリア文学内に交流し渦まきその頭や尻尾が見えつかくれつしている・・・ 宮本百合子 「プロ文学の中間報告」
・・・ような霊的交流をもって生活したが、やがて男はそのみこのような霊力の女をすてて、別の女と結婚し、死ぬ。 龍江は、だが、男の結婚したことは知らず、ある夜、ふろの中で突然はげしい香におそわれ、真裸でこのような強い香をかぐのは、たいへん恥しいこ・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫