・・・何がこの人生において合理的な生きかたであるかというようなことを心持の上でわからせて戸主気質から少しでも解放してやりたいこと。妹に真の自立性というものを教えて、勝気のために却って歪む自尊心の負傷を少くしてやりたいこと。咲が自分の亭主に対しても・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・民法が戸主の権利を縮小したからといって住宅難で若夫婦が父兄の家の一隅を借りていなければならないとき、資本主義社会で育ってきた人々の心持の中は、金銭問題や、義理がからんで、実際の封建的な家長の気分はのけられません。住宅問題は、政府の空手形の標・・・ 宮本百合子 「今度の選挙と婦人」
・・・市民税を納めることに、勤労市民の一人としての誇りを感じようとする心は、上級学校への道の封鎖や戸主であるなしの問題、その他の現実を思いめぐらしたとき、前途に洋々たる展望を描き出すことの困難さに当惑するであろうと思われる。青年に期待するというの・・・ 宮本百合子 「今日の耳目」
・・・における作者石坂氏が自身の芸術活動のモティーヴとして固守している超歴史的な本然性・人間性の主張、系統ある行為の目的性などを否定するという彼の系統だった現実への態度として明瞭に見られるところである。 阿部知二氏は「幸福」を今日の漱石文学と・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・プロレタリア文学の運動がはじまったころ、文学の純粋性を固守し「花園を荒すものは誰ぞ」と書いた中村武羅夫や、文学の芸術性は独自のものだと社会性ときりはなして主張した菊池寛が、戦争の間は先に立って、その花園に戦車を案内し、その芸術性を、戦争宣伝・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・日本の民主化が言われはじめた時、青年達は自分の家庭の生活を顧みて、日本の家族制度が動かすことの出来ない段々のように一家の中に刻みつけている戸主、長男、次男、三男の身分の違いを何と思ったろう。戦争や戦災で家を失い、又は夫を失って、実家へ子供を・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・親、戸主の権威が不幸の原因とさえなっていた結婚というものは、当事者である男女の互の意志によってとりきめられ、互の協力によって維持されるべきものとなろうとしている。憲法で、男女同等の基本的人権が認められるようになった。それに準じて変更される民・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・は狭くなったし、この指導部はブハーリン的な段階論を固守していたことによって批判されたのである。 作家同盟の成員が種々の層からなりたっているということは、作家同盟という一組織の内部でそれら様々の段階の作家たちが次第にプロレタリア作家として・・・ 宮本百合子 「前進のために」
・・・又、日本の従来の如く、父の没後は長子が戸主となって、事業から交際まで主となって引継ぎをしなければならないのとは異い、幾人か同胞があれば交際、事業などは各自の選択によって行っている場所では、特に長子が多分の遺産を相続する必要がありません。・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ AはA家の戸主で、移籍が出来得ない。それならば私は、もうA家の者になったのだから、良人の家に移るのが当然であり、Aが、結婚した以上、其位の責任は持つ覚悟だろうと、母上が提議されたのであった。 今、その時分のことを思い出すと、自分は・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
出典:青空文庫