・・・たとえば、僕のうちの電話番号はご存じの通り4823ですが、この三桁と四桁の間に、コンマをいれて、4,823と書いている。巴里のように 48 | 23 とすれば、まだしも少しわかりよいのに、何でもかでも三桁おきにコンマを附けなければならぬ、と・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・ピリオドを打ち得ず、小さいコンマの連続だけである。永遠においでおいでの、あの悪魔に、私はそろそろ食われかけていた。蟷螂の斧である。 私は二十五歳になっていた。昭和八年である。私は、このとしの三月に大学を卒業しなければならなかった。けれど・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・ピリオドを打ち得ず、小さいコンマの連続だけである。永遠においでおいでの、あの悪魔に、私はそろそろ食われかけていた。蟷螂の斧である。 私は二十五歳になっていた。昭和八年である。私は、このとしの三月に大学を卒業しなければならなかった。けれど・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・第一のテーマは楽譜の形からも暗示されるように、彗星のような光斑がかわるがわるコンマのような軌跡を描いては消える。トリラーの箇所は数条の波線が平行して流れる。 第二のテーマでは鉛直な直線の断片が自身に並行にS字形の軌跡を描いて動く。トリオ・・・ 寺田寅彦 「踊る線条」
・・・かけて滅茶々々にして了うのは相済まん訳だ、だから、とても精神は伝える事が出来んとしても、せめて形なと、原形のまま日本へ移したら、露語を読めぬ人も幾分は原文の妙を想像する事が出来やせんか、と斯う思って、コンマも、ピリオドも、果ては字数までも原・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・ そこで、コンマやピリオドの切り方などを研究すると、早速目に着いたのは、句を重ねて同じことを云うことである。一例を挙ぐれば、マコーレーの文章などによくある in spite of の如きはそれだ。意味から云えば、二つとか、三つとか、もし・・・ 二葉亭四迷 「余が翻訳の標準」
・・・しかしこの食堂に這入って来るコンマ以下のお役人には、一人も脂気のある顔はない。たまに太った人があるかと思えば、病身らしい青ぶくれである。 木村はこの仲間ではほとんど最古参なので、まかない所の口に一番遠い卓の一番壁に近い端に据わっている。・・・ 森鴎外 「食堂」
出典:青空文庫