・・・少し大きくなってから、夏休みなど飯坂や五色温泉に連れて行ってくれた。これはその前のこと、そうやって祖母が出て来ると、お土産にきっとお金をくれた。一円くれるのであった。「おら田舎婆さまで今時の子供は何が好きか分らないごんだ。お前好きなもの・・・ 宮本百合子 「百銭」
町から、何処に居ても山が見える。その山には三月の雪があった。――山の下の小さい町々の通りは、雪溶けの上へ五色の千代紙を剪りこまざいて散らしたようであった。製糸工場が休みで、数百の若い工女がその日は寄宿舎から町へぶちまけられ・・・ 宮本百合子 「町の展望」
・・・日が段々西に落ちて窓のガラスは五色にかがやいて居ます、けれども詩人のねむりはまださめません。「一ツ星を見つけた、運がよくなれー」と半ズボンの小供が叫ぶ頃ようやく目をさました人は、今更の様に自分がよくねて居たのを驚く様に又自分がついウトウトと・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
・・・ 黒田君の買って来た樅の木は小ぢんまり植木鉢におさまり、しかも二寸ぐらいの五色のローソクを儀式どおり緑の枝々につけている。 灯がついたら銀のピラピラが樅の枝で氷華のように輝いてキレイだ。 夜がふけて見たら、サモワールの湯気で、凍・・・ 宮本百合子 「モスクワの姿」
・・・翌日になって見ると、五色の紙に物を書いて、竹の枝に結び附けたのが、家毎に立ててある。小倉にはまだ乞巧奠の風俗が、一般に残っているのである。十五六日になると、「竹の花立はいりませんかな」と云って売って歩く。盂蘭盆が近いからである。 十八日・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・ ここは四方の壁に造りつけたる白石の棚に、代々の君が美術に志ありてあつめたまいぬる国々のおお花瓶、かぞうる指いとなきまで並べたるが、乳のごとく白き、琉璃のごとく碧き、さては五色まばゆき蜀錦のいろなるなど、蔭になりたる壁より浮きいでて美わ・・・ 森鴎外 「文づかい」
出典:青空文庫