・・・そして昔はそのへんには熊がごちゃごちゃ居たそうだ。ほんとうはなめとこ山も熊の胆も私は自分で見たのではない。人から聞いたり考えたりしたことばかりだ。間ちがっているかもしれないけれども私はそう思うのだ。とにかくなめとこ山の熊の胆は名高いものにな・・・ 宮沢賢治 「なめとこ山の熊」
・・・山羊に追いついてからふりかえって見ますと畑いちめん紺いろの地平線までぎらぎらのかげろうで百姓の赤い頭巾もみんなごちゃごちゃにゆれていました。その向うの一そう烈しいかげろうの中でピカッと白くひかる農具と黒い影法師のようにあるいている馬と、ファ・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・家にいるのは女ばかりで、長火鉢の前で長煙管で煙草をふかしている一太の母位の女や、新聞を畳にひろげて、読みながら髪を梳いている若い女や、何だかごちゃごちゃして賑やかな部屋の様子を一太は珍しそうに見廻った。いろんなものの載っている神棚があり、そ・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・でもね、ミーチャ、私は馬鹿で、あんたには追いつかないけれど、でもそんな風に暮しをごちゃごちゃにこわしたくない。 ありどおりお前さんに云うよ、ね、私は先のような私じゃないんです。元は、ほんとにあんたといることばっかり考えてた。そのためにば・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・ もし『現代文学論』に何かの物足りなさを感じる読者があるとすれば、その理由の一つには、昨今、評論と随想との区別がごちゃごちゃになって多くの評論家は現実評価のよりどころを失ったとともに自分の身ぶり、スタイル、ものの云いまわしというようなと・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
十三日。 おかしな夢を見た。 ひどくごちゃごちゃ混雑した人ごみの狭い通りを歩いていると右側に一軒魚屋の店が出ていた。 男が一人鉢巻をし、体をゆすって、俎の上に切りみを作っている。立って見ていると表面の黒いかたま・・・ 宮本百合子 「静かな日曜」
・・・「奥の用箪笥が、遊動円木の傍に出て、ごちゃごちゃになって居ます。と云う。 私はハット思った。 さてこそ、到頭入ったな? 頬かぶりで、出刃を手拭いで包んだ男が、頭の中を忍び足で通り過ぎた。 私は大いそぎで、まだカー・・・ 宮本百合子 「盗難」
・・・ 縁側に転寝をして居るものや、庭を眺めて居るものや、妙に肩を落して何かうなって居るものやら、玩具箱を引くり返した様にごちゃごちゃと種々な人間が集まって居る。「御馳走なんかろくにありもしないのに、 皆はしゃぎきって居る。 ・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・ 学校へも行かず叱りても持たない彼は、彼の年の持つあらゆる美点と欠点のごちゃごちゃに入り混った暮しをして、或るときは大変いい子であり或るときは大変悪い子である六は、貧しい部落中でも貧しい者の子、躾けのない子と目されているので、彼の友達に・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・がつみかさねてあり、はげたぬり箸は、ごちゃごちゃに入って来(た。 その椀を人数だけと箸を一本ずつ取って「わら」で一拭したまんま畳の上へ上って仕舞った。 私はわきで草を刈って居る婆さんに声を掛けた。「ねえ、お婆さん、 どこ・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫